自閉症息子、家事のスキルアップは「母の観察」にあり!?カーテン開けにも苦戦していたのに中3の今では

ライター:丸山さとこ
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神経発達症(発達障害)がある息子のコウは、現在中学生です。できる家事が少しずつ増えていき今では洗濯も手伝ってくれる彼ですが、かつてはカーテンを開けることにも苦戦していました。今回は、そんな彼と家事のこれまでを振り返りました。

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監修: 森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックにて勤務。産業医として一般企業のケアも行っている。 ・ゆうメンタルクリニック(上野/池袋/新宿/渋谷/秋葉原/品川/横浜/大宮/大阪/千葉/神戸三宮):https://yuik.net/ ・ゆうスキンクリニック(上野/池袋/新宿/横浜):https://yubt.net/

少しずつ増えたり減ったり?コウのお手伝いのこれまで

洗濯・料理・買い出しなど、さまざまな家事を家族で分担して行っている丸山家。年齢に応じて急に変化する役割に戸惑いがちなコウの将来を考えて、「家事は生活の中に当たり前にあるもの」とコウが感じられるように関わってきた。
洗濯・料理・買い出しなど、さまざまな家事を家族で分担して行っている丸山家。
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小さなころから「家事の分担」があることを伝えてきました

神経発達症(発達障害)がある息子のコウは、現在中学生です。彼には『家事は基本的にみんなで分担するものだ』と伝えています。そのため、「これちょっと手伝って~!」と単発の手伝いをコウに依頼することはありますが、特別にお手伝いとしてお願いしている家事というものはありません。

大人になって1人暮らしをするのであれば、その時は『家事』と呼ばれるものを概ね自分で行うことになります。外注したりサポートを受けたりする場合も、それを依頼したり、支援者などの『サービスとの中継をしてくれる人』に助けてもらったりする必要があります。

年齢に応じて急に役割が変化することに戸惑うときがあるコウの場合は、子どもの内から『家事は生活の中に当たり前にあるもの』と思っておくと、あとが楽なのではないかと考えました。

まずは難易度の低いお手伝いから

とはいえ、いきなりコウに家事の分担を任せたわけではありません。保育園から小学校低学年にかけて、コウにはお手伝いの形で少しずつ家事に慣れていってもらいました。

その頃は、『私から受け取ったタオルをカゴにしまう』『カーテンを開ける』のように難易度が低く、かつ「これができた」とコウが感じられるような作業をお願いしていました。
クシャクシャになったタオルを突っ込んだカゴを持って「できたよー」と得意げなコウと、それを見て「おぉ」と驚いている私。
クシャクシャになったタオルを突っ込んだカゴを持って「できたよー」と得意げなコウと、それを見て「おぉ」と驚いている私。
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難易度が低いとはいっても、カーテンを開けるには、レールを傷めないように丁度いい力でカーテンを横に引く必要がありますし、『レースのカーテンは閉めたまま遮光カーテンのみを開ける』という条件を理解する必要があります。

タオルをカゴに入れるにしても、カゴの中にキレイに入れるには、ある程度の器用さが必要です。畳んだタオルが崩れないように持ち上げる必要もあります。最初は畳んだタオルが積みあがったところから欲しいタオルだけをとることも難しかったため、私が一つひとつタオルをコウに手渡してカゴに入れてもらっていました。

「お手伝い」から「家事の分担」へ

大人になるまでの間に少しずつ練習していくことに!

そうして少しずつお手伝いの幅を広げていったコウが小学校高学年に入る頃、改めて家事の重要性を伝えた上で、「大人になった時に『できて当たり前』とされるのと、今の内から少しずつ練習しておくのと、どっちがいい?」とコウの意見を聞いてみました。

「必要に迫られて身が入ることもあるし、今の内からしておいたほうが楽だとも言えるし、どっちもアリだと思う」と伝えると、コウは「僕は今の内から練習したほうが楽なタイプだな」と答えたので、将来の暮らしを視野に入れた家事を少しずつ教えていくことになりました。
私から『大人になった時の家事の必要性』を聞かされたコウ。少し焦りながら「僕は今の内から練習したほうが楽なタイプだな」と言った。
少し焦りながら「僕は今の内から練習したほうが楽なタイプだな」と言うコウ
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洗濯物干しも、それまで行っていた『タオルと靴下を干す』というお手伝いの範囲からできることを少しずつ広げて、洗濯から取り込みまで全てを1人でできるようにしていきました。

・自分の服を干す(小さいので干しやすい)
・大人の服を干す(大きいので少し難しい)
・洗濯物をベランダに干す(地面につかないようにするなど気をつけることが多い)
・乾いたら取り込む(忘れないようにリマインダーを利用する)


このように少しずつできる家事が広がっていく中で、次第にコウは私が家事をしているところに興味を持つようになっていきました。

そして観察対象になった私

視覚情報の差異によく気がつくコウなので、私とコウの家事の違いに一度興味を持つと、いろいろなことが気になったようです。

「僕が干した洗濯物、お母さんが干したときとなんか違う……もちゃっとしてる」
「洗濯物全体に風が当たりやすいように干すのか!」
「卵を溶くときは、菜箸を少し開いて持つのはどうして?」
「お母さんは、卵液をフライパンに流した後にボウルのフチを菜箸でサッと撫でて卵液を切ってる。だから垂れないんだね」


などなど……私の作業風景を観察しては何かしらコメントするコウに、「そんな細かいところまで見てるの!?」と驚くことが増えました。
洗濯物を干している私を背後から観察しながら「洗濯物全体に風が当たりやすいように干すのか!」と気づいたことを口にするコウ。
洗濯物を干している私を背後から観察しながら「洗濯物全体に風が当たりやすいように干すのか!」と気づいたことを口にするコウ。
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できないことや苦手なことに気づくことも大切だから

こうして少しずつできる家事が増えていくと、たまにしかしないのに上達が早い家事もあれば、「コツコツ続けているけれど、どうも苦手なのかな?」と感じる家事もあります。中学生になった今でも、できるけれど時間がかかる家事や負担を感じやすい家事はあるようです。

私からすれば面倒そうに思える水筒洗いに関しては「だんだんと水筒を洗うのが早くなってきた!」と余裕を見せたりするのに、脱いだ衣服をカゴに入れるのはなかなか定着しにくく、向き不向きは本当に人それぞれなのだなと思います。
水筒を洗いながら「なんかだんだん水筒を洗うのが早くなってきた!」と喜んでいるコウ。それを見て「本当だね!いつもすすぎも丁寧でいい感じだよ」と感心している私。
水筒を洗いながら「なんかだんだん水筒を洗うのが早くなってきた!」と喜んでいるコウ。
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また、家事には時間制限のあるものがたくさんあります。『夕飯までにご飯が炊きあがるようにする』『日が落ちる前に洗濯物を取り込む』など、コウなりにリマインダーを使って時間を意識しているようですが、うっかり忘れてしまうこともしばしばです。

苦手はずっと残るかもしれませんが、苦手な作業に対しては『乾燥機能のある洗濯機を使う』『パックご飯を使う』などの対応策をとれることもたくさんあります。

できるようになることをコツコツ積み上げていくなかで、コウが「ここは苦手だな」と思うことも見つけていけるといいなと思っています。そして、苦手なことに対しては『対応策はいっぱいあるんだな』と思えるようになれたらいいなと願っています。
執筆/丸山さとこ

(監修:森先生より)
丸山さん、お子さんと家事との関わり方についての貴重な体験談をありがとうございます。年齢に応じて徐々に役割が変わっていくことになかなか順応できないお子さんは少なくありません。そのまま大人になってしまうと、一人暮らしをしてから健康を損なったり、結婚して家庭を持ってから配偶者に負担がかかってしまうことにもなりかねません。幼いうちから家事を自分事として考えられるような教育は、大変素晴らしいですね。

さて、一般に、特性がある方は家事があまり得意ではないことがあります。家事には「正解」や「終わり」がないので、「完成図」が分かりにくいのです。また、家事には複雑な作業の同時進行が求められます。発達の特性があると、脳の実行機能に偏りがあるため、家事に苦労することが多いのです。たとえばお料理であれば、作るものをイメージして、材料を買って、野菜を切りながらお鍋を煮込む、といった作業になりますよね。発達の偏りがある方は、重要な食材を買い忘れたりお鍋を焦がしてしまったり、というような失敗をしやすいのです。

丸山さんのように、早いうちから家事の大切さを教えて、できることを少しずつ増やして達成感を得られるようにすると、楽しく家事を身に付けていけるのではないでしょうか。これからもお子さんが自立に向かって前向きに取り組んでいけるように願っております。
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https://h-navi.jp/column/article/35030209
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

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