「個と環境の相互作用」の視点、子どもの困りごと解決にどう役立てる?公認心理師・井上雅彦先生に聞きました

ライター:LITALICO発達特性検査 編集部
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「個と環境の相互作用」という視点は、お子さまの生きづらさや困りごとといった障害が「お子さま個人の特性」と「環境」の相互作用で生まれるという考え方です。今回は、LITALICO発達特性検査の監修を担当した公認心理師の井上雅彦先生に、「個と環境の相互作用」という考え方がなぜ重要なのか、また日々のお子さまへのサポートで取り入れる方法をわかりやすく教えていただきました。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

個と環境の相互作用とは

「個と環境の相互作用」とは、個人の特性と、場所や人、物といった環境が相互に影響することで、障害や困りごとが現れるという考え方です。また、この考え方のもとでは、それら両方向の視点で働きかけることで、障害や困りごとの軽減を目指していきます。
「個と環境の相互作用」の関係図(「LITALICO発達特性検査」検査結果レポートより)。困難さは個(お子さま本人の特性・お子さま本人のスキル)と環境(場所・周囲の人・ものや活動)の間に存在する
「個と環境の相互作用」の関係図(「LITALICO発達特性検査」検査結果レポートより)
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LITALICO発達特性検査※でも、この考え方を大切にしています。お子さまの生きづらさや困りごとが「お子さま」と「環境」の相互作用で生まれると考え、監修を担当した検査結果のレポートでも、その立場から環境を調整する方法や、本人のスキルを獲得する方法といったサポートの方法を提案しています。

※LITALICO発達特性検査は、お子さまと保護者さまが感じている困りごとに対して、その特性の現れ方や背景、具体的なサポート方法が分かる検査です。オンラインで検査に回答するとすぐに結果が得られ、検査結果によって、お子さまの特性の現れ方の傾向や困っている事柄への対応方法のヒントが得られます。
LITALICO発達特性検査とは。特徴、対象、検査で分かること、受検方法などを解説のタイトル画像

LITALICO発達特性検査とは。特徴、対象、検査で分かること、受検方法などを解説

「個と環境の相互作用」の具体例

「個と環境の相互作用」の視点で困りごとを捉え、軽減する手段について、いくつか具体例をご紹介します。課題への対応は環境調整や個人のスキルを獲得するなどの方法が考えられます。

【個】視力が弱い
【困りごと】裸眼で周りのものがよく見えない
【環境調整】メガネをかける/文字を大きくする/黒板から近い席にする など

裸眼だと視力が弱くて見えにくい状態でも、メガネをかけて視力矯正したり、見えやすくなる工夫をすることで、困りごとや障害を軽減できます。

発達特性に関しても同様の考え方ができます。

【個】聴覚過敏があり、ざわざわした音が苦手
【困りごと】授業中の周りの音が気になって、教室を飛び出してしまう
【環境調整】音が気にならない位置に座席を変える/ノイズキャンセリングイヤホンやイヤーマフを使って苦手な音を軽減する/苦手な音が多い授業では休憩を入れる など
【個人のスキル獲得】苦手な音源から距離を取る/好きなことや集中できることをするなど、苦手な音から気を紛らわす方法を見つける など

「医学モデル」・「社会モデル」と「個と環境の相互作用」

いわゆる障害についてのアプローチには、大きく2つの立場があると言われています。その一つが、本人への治療や働きかけによって困りごとをなくそうという考え方で、これを「医学モデル」と言っています。

一方で、障害が周囲の環境によって作り上げられるものと捉え、社会の環境を変えることが障害をなくすことにつながるというのが障害の社会モデルの考え方です。

「個と環境の相互作用」は、医学モデルと社会モデルを統合したもので、個人の問題と社会の問題、どちらかだけではないという立場の考え方です。つまり、障害を個人と周囲の環境双方から捉え、状況を全体的に理解することで困りごとや生きづらさを軽減していくということです。

これは2001年に世界保健機関(WHO)によって採択されたICF(国際生活機能分類)での主な考え方でもあります。
ICF(国際生活機能分類)とは?ICFの考え方からその活用法まで、分かりやすくご紹介します!のタイトル画像

ICF(国際生活機能分類)とは?ICFの考え方からその活用法まで、分かりやすくご紹介します!

「個と環境の相互作用」を具体的に活かすポイント

家庭や園・学校でのお子さまの困りごとに対しても「個と環境の相互作用」の考え方を使って工夫できる場合があります。

まずは、個人の特性と環境それぞれを知り、それらの両面から、対応方法を検討します。困りごととなって生じている具体的な行動をピックアップすると、どのように対応するとよいかを考えやすくなります。課題が複数ある場合でも、ある特定の場面の具体的な行動に絞って一つずつ取り組むことをおすすめします。

その際のポイントとしては、本人のスキル獲得も合わせて検討することです。前述の聴覚過敏の例のように、環境調整だけでは難しい場合もあるので、双方から考えるといいでしょう。

お子さまの特性や状況について、洗い出したり保護者の方が自分で判断したりするのが難しい場合や、対応方法が分からない場合もあるかもしれません。そのような時にはLITALICO発達特性検査を活用すると、理解しやすい情報がまとまって提示されます。
LITALICO発達特性検査の監修を担当した井上雅彦先生
LITALICO発達特性検査の監修を担当した井上雅彦先生
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LITALICO発達特性検査を活用した「個と環境の相互作用」の取り組み方

LITALICO発達特性検査の検査結果レポートを使って、「個と環境の相互作用」の視点で対応を考える方法を具体的にご紹介します。

LITALICO発達特性検査では、検査結果の回答から、お子さま一人ひとりに合わせたレポートが出されます。そのレポートも「個と環境の相互作用」の考え方でフィードバックされるものが多くあります。例えば、以下のようなお子さまの困りごとを例に考えてみましょう。

・いつもと違うことがあると、パニックになりやすい
・スケジュールの変更を受け入れられずに癇癪を起こす など

生活する上では、思い通りにならないことや、予定などの変更が必要になることもあるので、うまく受け入れられるようになってほしい、パニックや癇癪を起こす場面を減らしたいというお悩みのある保護者の方も多いと思います。

上記のような困りに対して、LITALICO発達特性検査で表示されるレポートの一例をご紹介します。
LITALICO発達特性検査の結果レポートの一例
LITALICO発達特性検査の結果レポートの一例
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このように、まず、お子さまの特性や、困りごとの現れやすい背景要因が提示されます。ここでは、個の特性と、環境や条件などの相互作用によって困りごとが起きやすいことが分かりやすく紹介されています。
LITALICO発達特性検査の結果レポート「サポートの方向性」の一例
LITALICO発達特性検査の結果レポート「サポートの方向性」の一例
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検査結果レポートでは、単にお子さまの支援目標が提示されるだけでなく、その困りごとが「個と環境の相互作用」によって生じるという基本的な考え方に沿って、お子さま個人のスキルへの働きかけだけでなく、環境調整も視野に入れた対応方法も提案されます。上記のように、環境を調整することで困りごとが起きにくくなる方法など、特性に合わせ、うまくいきやすい対応方法に取り組むヒントが得られます。
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