知的障害息子も企業で働けるかもしれない…希望を持てた「就労移行支援」との出合い【18歳の壁/立石美津子 第1回】

ライター:立石美津子
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現在24歳になる知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の息子は、企業で契約社員として働いています。今年で4年目です
息子は特別支援学校高等部を卒業後、就労移行支援事業所に3年間通い、就職しました。
お子さまの進路についてお悩みの方は多いと思います。息子が特別支援学校高等部へ入学してから18歳までとそれからの選択肢の選び方、情報収集の仕方、そして選んだ進路とその後について順を追ってお話しさせていただければと思います。【第1回(全6回)】

監修者渡部伸のアイコン
監修: 渡部伸
行政書士
親なきあと相談室主宰
社会保険労務士
慶應義塾大学法学部卒後、出版社勤務を経て、行政書士、社会保険労務士、2級ファイナンシャルプランニング技能士などの資格を取得。現在、渡部行政書士社労士事務所代表。自身も知的障害の子どもを持ち、知的障害の子どもをもつ親に向けて「親なきあと」相談室を主宰。著作、講演など幅広く活動中。

特別支援学校では、入学時点で卒業後の進路を見据え4つのコースがあった

現在24歳になる知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の息子は、小学校1年生から特別支援学校に通い、小学校3年生から中学3年生までは特別支援学級で学びました。中学卒業後は特別支援学校高等部に進学し、小学校時代の友人と再会してクラスメイトとなったことを、とても喜んでいました。
息子が通っていた特別支援学校高等部では、入学時点で入学相談を元に卒業後の進路を見据え、以下の4つの類型に分かれていました。

A類型:生活介護を必要とする重度の障害のある生徒のクラス
B類型:就労継続支B型作業所への進路を想定したクラス
C類型:就労移行支援事業所、就労継続支援A型、B型への進路を想定したクラス
D類型:障害者雇用枠での企業就労を目指すクラス


そして、1年生時、A、B類型は園芸班・工芸班・ホームサービス班を経験、C、D類型は接客班、食品加工班、清掃班、事務班、施設管理班を経験し、2年生になると経験した班から2つの班に選び、3年生でさらにその中から1つに絞る、という流れでした。

このように、在籍クラスを見るだけで、その生徒の進路がほかの保護者にも分かる状態です。入学するお子さんの障害の程度がさまざまであるため、このようにクラスが分かれているのでしょう。
息子はC類型「就労移行支援事業所、就労継続支援A型・B型への進路を想定したクラス」に所属し、2年生の時は事務班・施設管理班を経験、将来はパソコンを使う仕事につきたいとのことで3年生で事務班に入りました。

※学校や地域によって類型の名称・内容・進路想定は異なります。詳細は各学校にご確認ください。

「息子は働けるようになるの?」将来への不安

息子の在籍していたクラスは、企業就労が難しいとされる生徒が対象でした。正直なところ、「本当に息子は働けるようになるのだろうか」「卒業後、自宅で過ごすことになってしまうのではないか」という不安が日々募っていました。

2年生になり、クラス別の保護者会がありました。その時担任の先生から、企業以外の見学については保護者が直接B型や就労移行支援事業所に連絡を取り、自由に見学に行って良いとの説明がありました。しかし、その時は、どういうものなのか、どこをどう選べばよいのか、何を基準に判断すればよいのか、まったく見当もつかない状態でした。

就労移行支援との出合い

2年生になると保護者会以外で、進路についての説明会が複数回始まりました。「年金の話」「区分認定の話」「進路の話」などテーマ別に保護者を招集して詳しく説明してくれるのです。その中で、就労移行支援という制度についてきちんと知ることができました。

「就労移行支援」という言葉を初めて聞いた時は、正直なところ「また新しい制度の名前か」という程度の印象でした。福祉の世界には似たような名前の制度がたくさんあり、その違いがよく分からなかったのです。
ですが、息子が利用している相談支援事業所から詳しい説明を受け、いくつか就労移行支援事業所も教えてもらいました。そして、自分でも調べていくうちに、就労移行支援制度の基本的な仕組みが分かってきました。

【制度のご紹介】就労移行支援制度とは

就労移行支援制度とは、障害がある人の就労をサポートする障害福祉サービスです。
就労を希望する方の一連の就労活動の流れ
就労を希望する方の一連の就労活動の流れ
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利用対象
(1)身体障害・知的障害(知的発達症)・精神障害・発達障害や難病の診断のある人
(2)企業等での就労を希望する人で、就労が可能と見込まれる人
(3)原則65歳未満の人(状況によっては65歳以上でも利用できる場合もあります)

利用期間
原則2年間(最大12か月延長可能)

サービス内容
1. 職業訓練
(例)
・ビジネスマナー、挨拶、身だしなみなどのトレーニング
・自己分析を通しての適正把握
・職場でのコミュニケーションのトレーニング
・パソコントレーニング(基本操作やOfficeソフトのスキル向上など)
・個人の適性に合わせた仕事のスキル向上
・職場見学・実習
・レクリエーションを通してほかの利用者との交流
 など
2. 適性に合った職場探し
就労移行支援事業所が直接、職業紹介を行うことは制度上できません。そのため、事業所内ではスタッフとの面談やプログラムを通して、利用者の希望条件、適性の把握、合理的配慮の整理などを行うとともに、ハローワークなどと連携して適性に合った職場探しをサポートしています。

3. 就職活動のサポート
求人についての相談対応や、応募書類の書き方、企業研究の仕方、面接での受け答えなどのプログラムを提供しています。ほかにも、応募書類の添削や模擬面接の実施などを通して就職活動に関するさまざまなサポートを実施しています。

4. 職場定着のためのサポート
就労移行支援事業では、原則として就職後6か月間の職場定着支援を行います。企業や就労した本人と定期的に面談し、問題が起きた時に間に入って調整するなどのサポートを行います。また、6か月経過後は就労定着支援と別途契約して最長3年間の定着支援を受けることもできます。

利用料金
前年度の世帯収入に応じて決まります。
就労移行支援の利用料金
就労移行支援の利用料金
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月額負担上限額があるため、利用回数に関係なく、設定された上限額を超える負担は生じません。この場合の世帯収入については、利用者本人と配偶者の所得を合算したものが対象となり、親の収入は計算に含まれません。ただし、サービス利用に伴う料金設定は各市区町村によって異なるため、上記の金額はあくまで目安となります。
ここから私は10か所程就労移行支援事業所を見学するのですが、それについてはあとに続く連載の中で詳しくお話しさせていただきます。
今ひとつ触れるとしたら、実際に見たサポート内容の充実ぶりです。単に作業をするだけではなく、パソコンスキルの習得から、面接練習、職場でのコミュニケーション方法まで、きめ細かい支援が行われていて本当に驚いたのを覚えています。
「息子も働けるのかもしれない」と思った瞬間でした。

まとめ 情報は特別支援学校で得ることができた

私の知人の話ですが、知的障害(知的発達症)があるお子さんが普通科高校に進学したケース情報があります。その方に息子が就労移行支援事業所に通うことを伝えた際、「何それ、知らない」と言われました。
地域によって状況はさまざまだと思いますが、義務教育ではない特別支援学校高等部は、ある意味で職業訓練の場でもあると感じました。卒業後も社会で生活できるよう、B型、生活介護、就労移行支援事業所、企業など、学校側が手厚くサポートしてくれました。実際、学校の先生は何度も息子が希望する進路先に足を運んでくれました。そのため、特別支援学校高等部に進学したことは良い選択だったと思います。

そして、知った就労移行支援制度。知る前は、「息子の将来はどうなるのだろう」という漠然とした不安ばかりでした。しかし、この制度を知ることで、「息子にも働く可能性があるのかもしれない」「しっかりとしたサポートがあるなら挑戦してみよう」と前向きに考えられるようになりました。

次回は「障害者雇用か就労移行支援か」わが家が就労移行支援を選んだ決め手についてお話しさせていただきます。

執筆/立石美津子

(監修:渡部先生より)
立石さんの就労移行支援に関するコラム、息子さんの実際の経験を元にした、とても参考になる内容でした。サービス内容の4で、「6か月経過後は就労定着支援と別途契約」とあります。この就労定着支援は、それまで利用していた就労移行支援事業所が継続して行う場合と、別な事業所が行う場合があります。障害者本人の意向や、事業所側の状況などによって変わってきますので、就労定着支援を希望する場合は、まずはそれまで利用した事業所に相談してみてください。
就労に関する障害福祉サービスは種類も多く、仕組みも複雑なので、息子さんの希望や特性を知る特別支援学校が、しっかり支援してくださったというのは、とても良かったですね。6回連載とのことなので、今後も楽しみにしています。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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