知的障害がある子どもの卒業後は?将来を見据えた「生涯学習」【専門家QA】

ライター:発達障害のキホン
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「生涯学習」とは、「生涯にわたる学習」を指す言葉です。これは障害のある方たちにとっても同様です。
このコラムでは、障害がある子どもの学校卒業後の学びや豊かな余暇のためにできることなど、生涯学習についてのギモンから、知的障害(知的発達症)のある方の将来の学びまで専門家の先生のアドバイスを交えてご紹介します。

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監修: 國本真吾
鳥取短期大学幼児教育保育学科教授
障害のある青年が、希望すれば18歳以降も学び続けることができる機会をどのように保障するかをめざして活動。学校教育の外側にある社会教育、福祉、労働、地域生活などから、障害のある子ども・青年の教育のあり方を深めている。また、鳥取県内で活動する沖縄音楽グループ・ゆいま~るのキーボーディストとして、障害のある若者と一緒に演奏の舞台に立つこともある。
目次

生涯学習とはどんなもの?

「生涯学習」と聞くと、成人後の学びであるとか、シニアの方向けの学びであるととらえている方も多いのではないでしょうか。
生涯学習について、文部科学省は下記のように記しています。
「国民一人一人が,自己の人格を磨き,豊かな人生を送ることができるよう,その生涯にわたって,あらゆる機会に,あらゆる場所において学習することができ,その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。」

引用:平成30年度文部科学白書 第3章 生涯学習社会の実現|文部科学省
出典:https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201901/detail/1421865.htm
「生涯学習」とは、「生涯にわたる学習」を指す言葉です。これは障害のある方たちにとっても同様です。

このコラムでは、

・障害がある子の学校卒業後の学び
・豊かな余暇のためにできること


など、生涯学習についてのギモンから、知的障害のある方の将来の学びまで専門家の先生のアドバイスを交えてご紹介します。

【専門家が回答】知的障害のある子どもの生涯学習とは?分かりやすく解説!

ここからは鳥取短期大学 幼児教育保育学科 教授であり、「特別ニーズ教育学」「障害児教育学」の専門家、國本 真吾先生に知的障害のある子どもの生涯学習についての質問にお答えいただきます。

障害のある方の「生涯学習」とはどのようなものなのでしょうか?

Q:障害のある方の「生涯学習」とはどのようなものなのでしょうか。目的なども簡単に知りたいです。

A:「生涯学習」というのは、人の一生涯にわたる学びです。
障害がある方にとっても「学び」は決して学校だけではなく、「あらゆる機会に、あらゆる場所」で保障したいものです。「働く」だけで終わってしまう毎日ではなく、「生きがい」としての活動が充実することで、働く意欲や労働の目的も変化していくことでしょう。「生涯学習」は、その人らしい人生や幸福を形にしていくものとして注目されます。

回答:國本 真吾先生(鳥取短期大学幼児教育保育学科教授)
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「生涯学習」と聞くと、「大人の学び」と思われる方もあるかもしれません。しかし、「生涯学習」というのは、人の一生涯にわたる学びなのです。一生涯ということですから、生まれてから老いるまでとなりますから、年齢にかかわりなく、学校教育、社会教育、家庭教育などの学びを含んでいるわけです。

障害のある人にとって、学ぶ機会は学校教育を終える18歳までで途切れる形が多いと言えます。例えば、特別支援学校高等部を卒業した人で、大学等に進学する人の割合は1.7%です(2023年3月卒業者、学校基本調査)。一方で、高等学校を卒業した人の場合は60.8%と、障害の有無で約36倍の差があります。また、障害種別で見ると、聴覚障害校からの大学等への進学は36.3%に対し、知的障害校は0.4%と、そこに約90倍の開きが存在します。18歳以降も学び続けたいという希望があっても、進学には障害の有無や種別により大きな差があるのが実態です。

「学び」は決して学校だけではなく、「あらゆる機会に、あらゆる場所」で保障したいものです。大人になった時、働く場や日中活動の場もそうですが、生活する中で知っておきたい知識や技術は存在します。学校で学んだことが、その先一生使えるものかと言われたら、そういうわけではなくなっています。知識や技術のアップデートの機会でさえ、障害のある人にとっては一人ではできないこともあったりするわけです。人生100年時代と言われる中、AIやICTツールなどの技術革新も進んでいます。生活の中に浸透していくそのようなものを使いこなすことを、この先どこで誰が教えてくれるのかということもあります。

大学ではなくても、希望すれば誰もが学ぶ機会が保障される活動が存在することが求められるわけですが、障害のある人はその機会から遠ざけられてきたと言えます。2017年度より、文部科学省は障害のある人の生涯学習支援に力を入れるようになりました。そこでは、「生涯学習」を「学び」の活動に限らず、文化・芸術、スポーツなども含めて、障害のある人の生涯学習を広く推し進めようとしています。これまで、そのような活動は「余暇」と括られる時間の取り組みとして見られてきましたが、休みの日に「生きがい」となる活動があることは、人間らしい生活としても重要です。

「働く」だけで終わってしまう毎日ではなく、「生きがい」としての活動が充実することで、働く意欲や労働の目的も変化していくことでしょう。「生涯学習」は、その人らしい人生や幸福を形にしていくものとして注目されます。
参照:学校基本調査-令和5年度 結果の概要-|文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/2023.htm

知的障害のあるわが子。将来の生活の質をあげるために、いまからできることはありますか?

Q:子どもに知的障害があります。将来、就労以外にも自分の余暇の時間を楽しんでほしいと思っています。障害がある子どもの将来の生活の質をあげるために、いまからできることはあるのでしょうか?

A:お稽古事の類も一つではありますが、地域の中で障害のある子どもを対象とした活動は存在しているかを探ってみましょう。
図書館の利用、公共交通機関の利用や交通系ICの使用(チャージ含む)なども、生活の質を考えると必要なことになるでしょう。
スーパーやコンビニでの買い物経験、カフェやファミリーレストランの利用などの中での何気ない経験の積み重ねが将来の生活を切り拓く力にもなるはずです。
回答:國本 真吾先生(鳥取短期大学幼児教育保育学科教授)
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「生涯学習」は学校教育も含めたものですが、学齢期からの取り組みも必要です。例えば、大人になってからの休みの日をどのようにして過ごすかを考えた場合、子どもの時からの経験の積み上げが生かされていくだろうと思われます。

お稽古事の類も一つではありますが、地域の中で障害のある子どもを対象とした活動は存在しているかを探ってみましょう。私が住む鳥取市では、障害のある子どもを大人になっても継続して受け入れている、音楽、体操、ダンス、スポーツなどの活動があります。民間の取り組みにはなりますが、一人の子どもが複数掛け持ちしていたり、親子で一緒に参加していることもしばしばです。子どもにだけやらせるのではなく、親も一緒になって楽しめる活動という選択肢もあってよいだろうと思います。

また、図書館の利用を例にすると、学校図書館や地域の公共図書館の利用を重ねておけば、休みの日の居場所の一つとして使うことができます。そして、公共交通機関の利用や交通系ICの使用(チャージ含む)なども、生活の質を考えると必要なことになるでしょう。学校や放課後等デイサービスで誰かによる送迎が当たり前になっていると、帰り道に道草を食うような経験自体が奪われています。一人で、または友だちと出かけることができるためには、楽しい活動の存在とともに、それへのアクセスに必要な経験や力も不可欠です。

スーパーやコンビニでの買い物経験は、学校でも取り組んでいたりしますが、カフェやファミリーレストランの利用などもあってよいでしょう。休みの日に親子で一緒に楽しむ活動を終えて、ほっと一息するためにファミリーレストランに寄った際、タッチパネルで注文したり、ドリンクバーを自ら操作させたりなど、何気ない経験の積み重ねが将来の生活を切り拓く力にもなるはずです。

知的障害特別支援学校卒業後も学びの機会を得られるようにしたいです

Q:知的障害がある子どもは特別支援学校卒業後、もう学びの機会は失われてしまうのでしょうか。知的障害のある子どもが卒業後もっと学べるような場所はあるのでしょうか。

A:特別支援学校の高等部卒業後も、学びの機会を得ようと思った場合、知的障害対象の特別支援学校高等部専攻科、障害福祉サービスを活用した「福祉型専攻科」「福祉型大学」、大学・専門学校などの科目等履修生や聴講生制度の利用、青年学級、公民館講座などの選択肢が考えられます。
回答:國本 真吾先生(鳥取短期大学幼児教育保育学科教授)
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特別支援学校の高等部卒業後も、学びの機会を得ようと思った場合、いくつかの選択肢が考えられます。

・知的障害対象の特別支援学校高等部専攻科
高等部3年を終えたあと、専攻科を置く特別支援学校への進学があります。専攻科は、高等部の卒業生だけではなく、高等学校を卒業した人も対象となる障害であれば入学できます。ただし、知的障害を対象とした特別支援学校では、全国で10校にしか専攻科は存在しません(2024年1月現在)。専攻科を設ける場合、多くは2年制ですが、なかには3年や4年間学べる学校もあります。学びの中身も、職業自立をめざした形もあれば、生活の質を高めたり、大人として豊かに生きるための学びを重視する学校など、それぞれで違いがあります。

・障害福祉サービスを活用した「福祉型専攻科」「福祉型大学」
特別支援学校の専攻科が少ないこともあり、障害福祉サービスを活用する形で、ゆっくり大人になるための時間を保障しようという取組みが広がっています。障害福祉サービスの「自立訓練事業」や「就労移行支援事業」などを組み合わせたもので、「福祉型専攻科」とか「福祉型大学」と称する場合があります。

・大学・専門学校など
知的障害特別支援学校高等部卒業であっても大学入学資格は有します。また、正規の学生としての入学ではなくても、科目等履修生や聴講生制度を利用したりすることもできるでしょう。大学によっては、知的障害の人を対象とした公開講座やオープンカレッジ、履修証明プログラムを設ける試みも始まっています。また、いわゆる専門学校(専修学校専門課程)に進む形も考えられます。

2024年4月より、合理的配慮の提供義務の対象に私立の大学・学校も加わります。学生としての身分にかかわらず大学・学校を利用する上では、合理的配慮に関しての建設的対話を申し出てみることも必要になるでしょう。

※制度上は特別支援学校卒業で大学入学資格は得られますが、大学側が定めた科目の単位を取得していないと受験自体ができない場合もあります。
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・青年学級、公民館講座など
地域によっては、「障害者青年学級」や公民館講座などで、障害のある人が学べる場を設けていることがあります。学びといってもさまざまで、季節ごとでの行事や旅行を計画して楽しむ場合もあります。行政が実施しているものもあれば、民間団体が実施しているものなど、運営主体もさまざまです。そのため、行政の窓口では十分把握できていなかったり、ネット検索でも十分ヒットしないこともあります。文部科学省は、毎年「障害者の生涯学習支援活動」に係る文部科学大臣表彰を行い、事例集の形で表彰された活動などを紹介しています。このようなものを参考にしてみると、身近なところで行われている活動を見つけることができるかもしれません。
参考:令和3年度における専攻科の生徒への修学支援の対象となる高等学校等専攻科|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/20210827-mxt_shuugaku_1344146_1.pdf
参考:「障害者の生涯学習支援活動」に係る文部科学大臣表彰 事例集|文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1398880.htm

障害のある子どもの生涯学習について、さらに詳しく知るために

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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。



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