環境を調整すれば、不登校は予防できる!

ここまでに「発達障害のある子の不登校では、環境的な要因の比重が大きい」「主な要因は学校の側にあることが多い」と書いてきました。そして、「環境を調整できなければ、不登校を選ぶしかない」という話もしました。それだけでは悲観的な話に思えるかもしれませんが、これは裏を返すと「環境を調整すれば、不登校は予防できる」という話でもあります。

音やにおいが苦手で教室に入れない「感覚過敏」の場合

例えば、音やにおいなどの刺激に対して過敏に反応しやすい「感覚過敏」が不登校の要因となっている場合があります。

感覚過敏の場合、ざわざわした雑音が苦手な子がいます。図工室のようなところで、さまざまな機械から音が出ていると、それを苦痛に感じる子もいるのです。ほかにも、教室の空調装置やパソコンから出る音が苦手な子や、音程がずれた合唱を聞くのが苦手な子もいます。

においへの過敏性では、理科室の独特のにおいが苦手で、実験がある日は学校に行けないという例があります。それから、給食の一部のメニューのにおいを苦痛に感じるという子もいます。
イラスト:フクチマミ(『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』より)
イラスト:フクチマミ(『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』より)
Upload By 本田秀夫

対応のポイント:感覚的な苦痛を強要してはいけない

感覚の異常は生まれ持った特性であり、本人の心がけ次第で変えたりおさえたりできるものではありません。また、何度も体験すれば慣れるというものでもありません。黒板に爪を立ててひっかく音が苦手だという場合に、その音を繰り返し聞いても、慣れて好きになることはないでしょう。それと同じです。

子どもに感覚の異常があって、どうしても耐えられない場所や活動がある場合には、その場所や活動への参加を絶対に強要しないようにしてください。

別室参加で学習の機会を保障する

図工室の音が強い苦痛となる場合には、図工室での授業には参加せず、別室で同様の活動をしたほうがいいでしょう。理科室での実験も同様です。

重要なのは、子どもが学習できることです。図工室や理科室を利用しなくても、一定の学習をすることはできるはずです。給食についても、どうしても苦痛なことがあれば、別室で食べられるものだけ食べる、お弁当を用意するといった対応を取ることが考えられます。

感覚の異常に対応するためには、別室対応やお弁当の用意のように、周囲の大人が手間をかけなければならない場合があります。しかしそれはメガネを用意することや、アレルギーに対応することと同じで、その子の生活や学習を保障するために必要なことです。

感覚面の対応の難しさ、本人のつらさがわからない

感覚の異常は過小評価されがちです。感覚機能の個人差を比べるのは難しいのです。多くの人は、図工室の機械の音が最初は気になっても、そのうちに慣れたりします。そのため、誰かが感覚過敏をうったえて助けを求めてきても、「すぐに慣れるよ」などと答えたりするのです。ここに感覚面の対応の難しさがあります。

私が「理科室のにおいが苦手なら、別室で参加するような形を検討しましょう」と提案すると、大人から「そこまでしなくてはいけないんですか?」と聞かれることがあります。そのくらい、本人と周囲の人の感じ方には差があるのです。

対応に迷うときには本人の意思を確認して

対応に迷うときは、子ども本人がどうしたいのかを確認しています。周囲の人は本人の苦痛を過小評価しがちなので、本人の意思を確認して、対応を検討します。

本人がやはり「においがつらい」と言う場合には、別室で参加する形を検討します。最近ではタブレットのビデオ通話機能などを使って、実験の様子をリアルタイムで、映像で見ることもできます。

一方で、理科室のにおいは苦手だけど実験を自分で行いたい、または間近で見たいというふうに本人が希望することもあります。その場合には例えば、マスクをつけてにおいを防ぐような対応を検討していきます。
ほかにも、図工室の音が苦手な子が作業自体は好きで、できれば授業に参加したいと希望することもあります。その場合には、イヤーマフをつけることなどを提案します。

ここでは一例として、「感覚過敏」のお子さんへの「環境調整」を紹介しました。ほかにも、「授業や集団活動になじめない」「授業についていくのが難しい」「予定の変更が苦手」といった悩みについてもよく耳にします。これらの悩みを含めて、発達障害のあるお子さんの不登校は、対応次第で予防できるものだと私は考えています。

そしてその対応というのは、けっして難しいことではありません。環境を調整することです。学校やクラス、先生を選ぶことはできなくても、環境を調整して、子どもたちが苦労しにくい学校にしていくことはできます。

環境調整は不登校を防ぐための最善の方法

子どもが「学校に行きたくない」と言っているときには、その子が学校を楽しいと思えない要因がどこかにあるはずです。親と先生は子どもの話を聞きながら、さまざまな要因を考えていきましょう。そして、その子が「こういう学校だったら行きたい」と思えるような環境を整えていきましょう。

子どもと大人でよく相談をして、環境調整に取り組んでいくことが、発達障害のある子の不登校を防ぐための最善の方法です。

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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
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