失語症になるとどんな症状があらわれるの?

失語症になると、話すことだけでなく聞く、読む、書く、計算することすべての能力に困難が生じます。

しかしその症状やその重さは一様ではなく、脳の損傷の場所と大きさによって違いが生じます。失語症の症状を「話す」「聞く」「読む」「書く」「計算する」の5つの側面に分けて説明します。

話す

・言いたい言葉が浮かんでこない
思ったことを言葉ですらすらと表現できなくなります。特に人名や地名などの固有名詞が出にくく、「ここまででているんだけど」というもどかしさを感じます。また、「包丁」と言いたいのにその言葉が思い浮かばないため「魚を切るやつ」と遠回しな回りくどい表現をすることもあります。

この症状は記憶力の低下によるものではなく、意味の引き出しと言葉の引き出しがうまく対応していないために起こっています。

・思ったことと違うことを言ってしまう
「病院」を「学校」、「みかん」を「りんご」のように単語を言い間違える場合と、「メガネ」を「メダネ」、「時計」を「トテイ」というように違う音に言い誤る場合があります。言葉の言い間違いがひどい場合は、まったく意味不明の言葉(ジャルゴン)が続くようになります。

・文章で話すことが難しくなる
「オトーサン…カイシャ…ヤスミ…」のように単語でポツリポツリとしか話せなくなってしまったり、「お父さんは会社へ休みでいます」のようにすらすらと話せても正しい文章ではないことがあります。

・同じ言葉が言えたり言えなかったりする
一度言えた言葉でも、もう一度言おうとすると言えないことがあります。反対に、さっき言えなかった言葉が今度は言えるということもあります。

・前に言った言葉が続いて出てくる
いったんある言葉が出始めると、その言葉ばかり繰り返し出てしまうことがあります。例えば、名前を聞かれて、名前が言えたあと、続いて年齢を聞かれても名前を言い、次に住所を聞かれても名前を繰り返すような状態です。

・唇や舌に麻痺がないのに発音がたどたどしくなる
すんなり正しい発音ができなくなり、たどたどしい話し方になります。

聞く

耳は聞こえているのに、聞いた言葉の意味が理解できなくなるというのも失語症の症状です。

・大勢の人が集まっているところで会話を聞きとるのが難しい
症状が軽い人の場合、日常的には聞き誤ることはほとんどありませんが、大勢の人が集まっているところで集中して会話を聞きとることが難しくなります。

・早口や回りくどい言い方、複雑な内容や長い文章の理解が難しい
講演会で話されるような複雑な内容の文章を理解することが難しくなります。また、もう少し症状が重くなると「冷蔵庫から牛乳と卵を出して」という程度の長さの文章を理解することが困難になります。

これは聞いた内容を頭にとどめておくことが難しくなるためです。この場合、「冷蔵庫から牛乳をとって」といい、牛乳を取り出したところで「卵も取って」というと分かりやすくなります。

・身の回りの品物の名前を言われても意味が分からない
障害が重くなると、身の回りの品物の名前を言われても意味が分からずきょとんとしていたり、間違った理解をしてしまうこともあります。

しかし、判断力が低下しているわけではないため、言われた単語の意味が分からなくても状況から推察して適切な行動をとることができます。そのため周りの人からは失語症の症状があると分かりにくいことがあります。

読む

失語症になると、目は見えているのに文字や文章の意味の理解が難しくなります。

・複雑な内容の文だと意味を読み取れない
症状が軽い人の場合、簡単な読み物など楽しむことができますが、複雑な内容になると文の意味を読み取ることが難しくなります。

・単語の意味を理解できない
症状が重くなると、文章だけでなく単語の意味を理解するのが困難になります。

失語症の人は一般的に、かな文字に比べて漢字のほうが理解しやすい傾向があります。かなは表音文字であり、発音を表しているだけなので、その文字を見ただけでは意味はとれません。一方漢字は表意文字であり、文字を見ただけで直接大まかな意味を取れることが多いので、かなよりも漢字のほうが理解しやすいのです。

書く

・難しい漢字が思い出せない、文法を間違える
症状が軽い人の場合、文章を書くことはできますが、難しい漢字を思い出せなかったり、濁点や拗音(ようおん)が抜けることがあります。また、助詞を誤るなどの文法上の問題もみられます。

・自分の名前が書けない
症状が重くなると、自分の名前も書けなくなることがあります。自力では書けないときに漢字のへんやつくりの部分を書き示すとあとを続けて書くことができたり、見本の文字を示すと書き写すことができる場合があります。

計算する

・数字を言い間違える・聞き間違える
数字は失語症の人にとって聞き間違えたり言い間違えたりしやすいものの筆頭にあがり、軽度の人にとっても難しいものと言えます。数字の桁数が上がるほど理解も表現も難しくなり、たとえば電話番号や金額、日付や時間を言い間違えたり聞き間違えることがよくあります。

・計算が難しい
計算は一般的に九九を使うかけ算・割り算が難しく、足し算や引き算でも繰り上がり・繰り下がりがあると難しくなります。

失語症にはどんなタイプがあるの?

失語症の症状は人によって千差万別ですが、脳が損傷を受けた場所や症状の程度によっていくつかのタイプに分けることができます。

運動性失語症(ブローカ失語症)

運動性失語症は、脳(左脳)の比較的前の方の部分に障害が起き、運動性言語中枢(別名:ブローカ中枢)に障害がある状態です。このタイプの失語症は、イメージが言葉になる過程で障害がおこるため、話すことがうまくできず、ぎこちない話し方になります。また、言葉の発音が不明瞭になったり他の音に置き換わることがあります。

軽度の人は文章で話せますが、話すスピードは遅く、言葉の発音はしにくいです。重度の人は単語や短い言葉を話しますが、文章を話すことは難しくなります。

感覚性失語症(ウェルニッケ失語症)

感覚性失語症は、脳の比較的後ろの部分に障害が起き、感覚性言語中枢(別名:ウェルニッケ中枢)に障害がある状態です。このタイプの失語症は、なめらかにぺらぺらと話すことができますが言い間違いが多く、また相手の言っていることが理解できず会話が成立しないことがあります。

話すことよりも聞いて理解することが困難になるのがこのタイプの失語症です。軽度の人でも複雑な文章は聞き取りにくくなり、重度の場合は日常の意思疎通が大変困難になります。

失名詞失語(健忘失語)

比較的軽度の失語症です。聞いて理解することはでき、会話も口頭で楽しめますが、物の名前が出てこないため、回りくどい話し方が多くなります。

例えば、「スイカ」という単語が思い出せず「ほら夏に食べる、大きくて、丸くて、おいしいの」と言いたいものを抽象的に表現します。

全失語

「聞く・話す・読む・書く」のすべての言語機能に障害がある、重度の失語症です。

聞いて理解するのは困難ですが、その人の感情に強く訴える言葉は理解できることもあります。意味のある言葉を言うことがほとんどできなくなり、決まりきった言葉しか言えなくなったり、相づち程度になります。

失語症の診断から検査に至るまで

失語症の原因は脳の損傷です。言葉が出ない、呂律(ろれつ)が回らないなどの言語症状も、脳の機能の異常を示す症状の一つであり、本格的な脳卒中の前触れかもしれません。少しでも疑いがある場合は、神経内科や脳神経外科への受診をおすすめします。

脳卒中や事故による頭部外傷などで脳に損傷が起こった場合、主治医はその主となる病気やけがの治療にあたります。その後、後遺症として失語症が起こった場合、主治医の紹介により言語聴覚士が検査や診断、治療にあたります。

言語聴覚士は言語治療のプロフェッショナルです。失語症によって患者さんの気持ちが混乱したり落ち込んだりすることもあるため、失語症の検査は病状が落ち着いた頃に始めます。

日本の代表的な失語症検査のひとつは「SLTA(標準失語症検査)」です。言語聴覚士が患者さんに質問をして答えられる割合を調べます。

この検査では患者さんの聞く力・話す力・読む力・書く力・計算する力を測ります。回復の程度を調べるために、治療中にも一定期間ごとに何度か行います。
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