視空間認知って?「見る」ことのメカニズム・検査・強化するトレーニング法、発達障害との関連について

ライター:発達障害のキホン
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視空間認知とは、目から入った情報のうち、ものの位置や向きを認識する能力です。この機能は視力のよし悪しとは異なるもので、地図を読んだりぬりえをしたりするときに使われます。子どもの場合には、読み書きの困難があるとき、視空間認知の弱さが背後にひそんでいることも。ここでは視空間認知のテストの方法、鍛え方(ビジョントレーニング)、発達障害との関連などをご紹介します。

目次

視空間認知とは

視空間認知とは、目から入った視覚の情報を処理し、空間の全体的なイメージをつかむための機能です。ものとの距離感や奥行き、文字や形を把握するときに使われます。

目でとらえた映像は、そのままだと「点」「線」「色」などの単なる情報にすぎません。しかし、私たちは「3本の縦線」を見ると漢字の「川」であることがわかりますし、平面である地図の情報を見て、自分の現在地がどこかを把握し、実際に目的地までたどり着くことができます。これらはすべて視空間認知の機能のおかげです。

このように視空間認知機能とは、視力とは異なり、はるかに幅広く複雑なものです。「ただ単にものを見る」ための視覚のシステムは生まれたときにはほぼできあがっていますが、視空間認知は発達とともに身についていくものです。この機能を身につけていくためには、実際にものを見たり触ったり、興味のあるものを目でとらえて手を伸ばしたりと、空間の中で目や体を使う経験が必要です。

さて、視空間認知は「見たものの全体像を把握する機能」ですが、その機能はいくつかの要素に分けて考えることができます。

・対象と背景を区別するはたらき
・形や色を認識するはたらき
・形・方向に左右されず、同じ形を「同じだ」と把握するはたらき
・ものともの(あるいは自分ともの)の位置関係を把握するためのはたらき

詳しくはのちほどの章でご説明しますが、これらの4つのはたらきにより視空間認知機能は構成されています。

また、視空間認知機能は、運動機能や記憶力とも関連する重要な機能であるといえます。脳で処理されたイメージが鮮明であればあるほど、即座に反応して体を動かすことができますし、複雑な形も覚えることができます。逆に、この機能に弱さのある場合には、ものを覚えることや、体を動かすことに対して苦手を持っていることが多くなります。

視空間認知の力が弱いとどうなるの?

私たちは日常生活のさまざまな場面で視空間認知の機能を使いながら過ごしています。学習や集団での行動につまづきがある子どもの中には、その背景に視空間認知の問題が潜んでいることがあります。視空間認知に課題がある場合には、以下のような姿が見られることが考えられます。

例えば、
【生活】
・探している本を本棚から見つけることができない
・ぬり絵をするとき、枠からはみ出たり、すきまだらけになってしまう
・人の顔をなかなか覚えられない

【学習】
・教科書の中から特定の単語を探し出すことができない
・文字(漢字やひらがな・アルファベットなど)をなかなか覚えられない
・図形の問題が苦手

【スポーツ】
・ダンスを見て覚えたり、まねしたりするのが苦手
・飛んでくるボールをうまくつかむことができない

これらの項目に多く当てはまる場合には、視空間認知機能に弱さが見られる場合があります。視力の問題はともかく「見えにくさ」の問題は、子どもが自ら気づくことは少なく、周りもなかなか気がつかないことが多いです。

視空間認知が成立するまでの「見る」ことのメカニズムって?

そもそも、私たちはどのようにものを「見て」いるのでしょうか。ものを見るために必要な機能はさまざまです。視空間認知機能は、たくさんの「見る力」のうちのひとつの機能にすぎません。

「見る力」と聞いてまず思い浮かべるのは視力でしょう。視力とは、目に見える物体を鮮明にとらえる力のことで、止まっているものの形を見分ける力です。しかし、たとえ視力がよくても「見る力」のはたらきが優れていとは限りません。

「見る力」は、「入力」「情報処理」「出力」という3つのステップから捉えることができます。この3つは関連し合っており、この3つのうち、一つでも欠けてしまった場合には「見えにくさ」が生じ日常生活に支障があらわれてしまいます。
見る力の図
見る力の図
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1.【入力】にあたる「眼球運動」…動いている物体を目で追う、ピントを合わせる
2.【情報処理】にあたる「視空間認知」…目で見た情報を脳で処理する
3.【出力】にあたる「目と体のチームワーク」…目で見たものに合わせて体を動かす

このうち視空間認知は「情報処理」の部分にあたります。ではこれから、私たちがものをどのように見ているのかのメカニズムを3つのステップに分けてお伝えします。

1.【入力】眼球運動

【入力】にあたる「眼球運動」の図
【入力】にあたる「眼球運動」の図
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ものを目で追ったり、視線をすばやく動かしたり、両目を寄せたり離したりするのが眼球運動のはたらきです。このはたらきは「入力」の部分にあたり、目の動きが適切に行えることで、情報をくまなく目から取り込むことができます。

眼球運動には、以下の3つの種類があります。

◇ものを目で追う「追従性眼球運動」
一本の長い線や、本に書かれた文字をゆっくりと追いかける眼球運動のことです。見ているものの動きに合わせて滑らかに、動いているものと同じ速さで眼球を動かすことです。また、ひとつのものに焦点を絞って見つめ続けることも、追従性眼球運動のひとつです。

例えば以下のようなとき、追従性眼球運動がはたらいています。
・飛んでいる飛行機を目で追う
・書き順を目で追う
・ものをじっと見る

◇視線をすばやくジャンプさせる「跳躍性眼球運動」
すばやく、一点から別の一点へ視線を動かす眼球運動のことです。飛び石から飛び石へ視線を移していくというイメージがわかりやすいかもしれません。この眼球運動は、多くのものの中から必要な情報を早く、正確に見つけるために必要なはたらきです。

例えば以下のようなとき、跳躍性眼球運動が働いています。
・黒板とノートを交互に見る
・人ごみの中から探している人を見つける
・本を読む際、次の行に移る

◇見るものに合わせて右目と左目を離したりする「両目」のチームワーク
普段意識することはないかもしれませんが、私たちは両目を使うことにより物の距離感や立体感をつかんでいます。

片目を閉じて、周りを見渡してみてください。片目で見るときには周りの景色が写真のように見えるのではないでしょうか。写真ほどではなくても、見え方に少し違和感があると思います。

ものとの距離に合わせて、右目と左目の視線を変化させています。つまり、対象物に焦点を合わせるために、近くのものを見るときには両目を真ん中に寄せ、そして遠くのものを見るときには両目を離しているということを指します。

これら3つの眼球運動が正しく機能することにより、情報を目から取り入れる「入力」という第1ステップが完了します。

2.【情報処理】視空間認知

【情報処理】視空間認知の図
【情報処理】視空間認知の図
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第1ステップで「入力」された視覚情報は脳へ伝わり、「情報処理」という第2ステップへと引き継がれます。この情報処理の段階ではじめて、本記事のテーマとなる視空間認知の力が発揮されます。

視空間認知は、目から入った情報を脳で把握する能力です。空間の一部ではなく、全体像を把握するはたらきがあります。ただの点や線だった情報が、一つの形として具体的にイメージすることができるのは空間認知のはたらきのおかげです。空間認知のはたらきは4つに分けて考えることができます。

◇見たい対象と背景を区別するはたらき
私たちは、目に入るすべての情報から、必要な情報だけを選びとって、ものを見ています。これは、その対象物と背景を見分ける力があるおかげです。

たとえば町の中でも、道路を渡るときには信号を見たり、目の前に飛び込んでくる自転車を見てよけたりなどと、必要な情報だけを選びとって見ることができるのは、「対象と背景」が区別できているからです。

◇形や色を弁別するはたらき
目から入った情報を分析し、形や色、輪郭などを認識するはたらきです。例えば、さまざまな色や形のビーズの中から、色・形ごとに正しく分けることができるのはこのはたらきのおかげです。そのほかには、お絵かきやぬりえをするときにも、図形の問題を行うときにもこのはたらきが役立っています。

◇位置や色・形の不揃いにかかわりなく、「同じ」ものだと認識するはたらき
これは背景や位置、大きさ、多少の乱れがあっても、同じものを同じであると認識するためのはたらきです。

例えば、書体が違っても筆記体でも「A」を同じ文字として認識することができるのはこのはたらきのおかげです。また文字や図形に限らず、人の髪型や化粧が変わっても、同じ人であるとわかるのもこのはたらきのおかげです。

◇空間的な位置を把握するはたらき
目で見たものを立体的に把握して、空間の中で位置関係や向きを認識する力です。ものと自分との距離感、奥行きの感覚を把握します。上下・左右などの判別や、ものをつかんだりするために必要な能力です。

3.【出力】目と体のチームワーク

【出力】目と体のチームワーク
【出力】目と体のチームワーク
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第1ステップで情報を目で見て、第2ステップで脳の中で認知された情報をもとに、私たちは体を動かします。これは、「入力」「情報処理」の次のステップの「出力」にあたります。

「目と体のチームワーク」とは、視覚のはたらきと体の動きを連動させることです。例えば「赤信号を見て横断歩道の手前で止まる」ことを例にあげて考えてみましょう。

1.赤信号を目でとらえる
2.脳が体に「止まれ」という命令を出す
3.脳から送られた命令に従い、体が反応し立ち止まる

このように、視覚の情報をもとに体を動かしています。私たちは、これらの一連の動きを普段意識することなく瞬時に行っています。「見る」と「動く」という能力のつながりは生まれたばかりの赤ちゃんにはなく、心身の発達とともに身につけられていくものです。

これらの3つの「眼球運動」「視空間認知」「目と体のチームワーク」を合わせて「見る力」といいます。

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