虐待の影響

虐待は子どもの心身に非常に大きな影響を与えます。この章では、虐待の影響を分類ごとに説明します。

身体的な影響

身体的影響は、大きく二つに分けられます。
 
一つは、外的な傷害です。外的な傷には打撲、切り傷、やけどなど目に見える傷と、骨折や頭蓋骨内出血などの見えない傷があります。また、目に見える傷であっても衣服に隠れる場所にあるため発見が遅れてしまう場合があります。

外傷が重い場合には、重い障害が残ったり死に至る可能性があるため、いち早く気づけるように注意する必要があります。

二つ目は発育の遅れです。十分な食事を与えられなかったり、愛情を注がれなかったりしたために栄養障害や精神的な発育の遅れが生じることを言います。逆にストレスで過食になったり、感覚が鈍くなったり、外傷を負っても気づかないというケースもあります。

知的発達への影響

虐待を受けた子どもの中には、家庭内が安心できる環境ではないこと、十分に学校に通うことができないこと、また、保護者からの知的発達に必要な関わりがないために、知的な発達面に影響が出ることがあります。

知的な発達の異常は、認知機能(知覚、記憶、思考、判断)の低下、衝動性や多動性により発達障害だと誤解される可能性もあります。

心理的な影響

本来、最も愛情を注いでくれるはずの保護者から傷つけられることで心理的な問題が生じることもあります。

親子間の愛着関係を築くことができなかったため、対人関係の構築に問題が生じやすくなります。例えば、「人を信用できない」「仲良くなってもすぐに関係を壊してしまう」「否定されることが怖くて自分の意見が言えない」などです。これらは子どもが大きくなって社会生活を送る上で大きな障害となり得ます。

つまり、虐待の影響はその場限りではなく、子どもが成長してもずっと続くことがあるのです。

ほかにも、自己評価の低下や行動コントロールの困難さが原因となり、暴力的・衝動的な行動や非行に走ることがあります。

偽成熟性も特徴的な症状です。精神的に不安定な大人と関わることで自分が大人の役割を果たさなければいけないように思い、大人びた行動にでることを言います。一見成熟しているように見えても思春期頃に問題行動が出てくることもあります。

また、強い心理的ストレスによる記憶喪失や解離性障害、不眠など、日常生活に支障をきたしてしまう精神疾患に至るケースもあります。

このように、虐待は子どもの心身に多大な影響を残し、その回復のためには長期間の治療やケアが必要になるのです。手遅れにならないように、周囲がよく気を配ることが必要です。
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なぜ虐待が起こるのか

虐待が起こりやすくなるリスク要因として、「保護者側のリスク要因」「子ども側のリスク要因」「養育環境のリスク要因」という三つが挙げられます。

・保護者側のリスク要因
さまざまな原因により、保護者が子どもを受け入れられないことがあります。
具体例としては、望まない妊娠、子育てに関する知識不足、虐待を受けて育った経験、保護者自身の精神的な問題や特性などです。
子育ての途中につらい記憶がよみがえってきたり、子どもに注意を払いたくても気づけないことが多かったり、教育の仕方が分からなくて暴力的な言動やネグレクトを引き起こしてしまうことがあります。

・子ども側のリスク要因
衝動的な行動や、指示が通らない、こだわりがあるというような親の言うとおりにならないなどの子どもが持つ特性によって保護者が育てくさを感じ、そのストレスが虐待に発展してしまうことがあります。

・養育環境のリスク要因
貧困家庭やひとり親家庭などの場合には、保護者が環境に関心を向ける余裕がなく、社会的に孤立してしまう場合があります。このような家庭は保護者が生活を維持することに精いっぱいなため、子どもへの関心が向きづらく無自覚のうちにネグレクトにつながってしまうことがあります。

孤立している家庭は周囲とのコミュニケーション、サポーティブな関係、頼れるサービスが身近にあることで家庭内トラブルのリスクが大きく減ると言われます。本人や周囲の人々がリスクを認識しつつ、支え合える関係を築いておくことが重要です。

虐待のサイン

家庭内に虐待が起こっている場合、子どもや保護者の様子に異変が生じるはずです。周囲がその変化にいち早く気づくことで深刻な虐待に至る前に早期発見し、食い止めることができるでしょう。

子どもの様子

1.身体的な変化
□不自然な傷や同じような傷が多い
□原因がはっきりしないケガをしている
□治療していない傷がある
□極端な栄養障害や発達の遅れが見られる

2.表情
□表情や反応が乏しく活気がない
□ボーっとしている
□おびえた泣き方をする
□養育者と離れると安心した表情になる

3.行動
□食事に異常な執着を示す
□衣服を脱ぐとき異常な不安を見せる
□ひどく落ち着きがなく乱暴、情緒不安定である

4.他者との関わり
□他者とうまく関われない
□繰り返し嘘をつく
□態度がおどおどしている
□親や大人の顔色をうかがう
□誰かれなく大人に対して警戒心がうすい(なれなれしい、ベタベタする)
□保護者が迎えにきても帰りたがらない
□他者との身体接触を異常に怖がる

5.生活の様子
□衣服や身体がいつも不潔である
□基本的な生活習慣が身についていない
□予防接種や健康診査を受けていない
□年齢不相応の性的な言葉や性的な行動が見られる
□夜遅くまで遊んだり徘徊したりしている
□家に帰りたがらない

保護者の様子

2.他者への関わり方
□他者に対して対立的、否定的な態度をとる
□特に、理由もなく関わりを避けるなど連絡が取りづらい
□説明の内容が曖昧でコロコロ変わる
□子どもに関する他者の意見に被害的・攻撃的になる

3.生活の様子
□近隣との交流を拒否し孤立している
□不衛生な生活環境である
□小さい子どもを家に置いたままよく外出している
□夫婦関係や経済状態が悪い
□夫婦間の暴力が認められている

4.保護者自身のこと
□ひどく疲れている
□精神状態が不安定である
□性格的な問題として、被害観が強い、偏った思い込み、衝動的、未成熟など
□いつもお金に困っている様子がある
□家族関係のトラブルを抱えている
参考:虐待のサインを見つけるには|神奈川県
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/he8/cnt/f533519/p976866.html
もちろん、この基準に当てはまるからといって、虐待が起こっているとは限りません。その子どもの特性を踏まえて変化に注目してみましょう。たとえば「今まで活発だった子が急にふさぎこんでしまった」「お友達と遊ぶことが好きだったのに、最近は一人でボーっとしている時間が多い」などです。親子の様子に著しい変化や違和感がないか、確認しましょう。

変化に気づくためには、周囲の注意深い観察が必要です。ぜひ、上の項目を意識しながら子どもたちを見守ってみてください。
次ページ「虐待の可能性があるときは?」

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