親なきあと、障害のある子はどう暮らす?お金は足りる?行政書士・渡部伸先生×立石美津子さん対談【前編】

ライター:発達ナビ編集部
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各地で講演活動を行い、障害のある子の「親なきあと」の現状や対策について発信する行政書士の渡部伸先生と、自閉症児の母であり、発達ナビで連載コラムを執筆する立石美津子さんによる「親なきあと」についての対談企画!

保護者の立場からわき出る、立石さんからのリアルな疑問・不安に対して、専門家の渡部先生が分かりやすく説明。前・後編の2回にわたり、「気になるけれどよく分からない」という人も多い、「親なきあと」のお金や生活について、今からどんな対策をすればよいかをお伝えします。

撮影:田島寛久

目次

「親なきあと」とは?今できることはある?「親なきあと」相談室を主宰する行政書士・渡部先生×自閉症の子を育てる立石さんの対談から

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左:渡部伸先生(「親なきあと」相談室主宰・行政書士)右:立石美津子さん(講演家)
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「子どもは学校を卒業したら働き、いつかは自立して巣立っていく―」。それが当然だと思っていたけれど、障害のある子を授かり、そうではないこともあるのだと気づいた保護者も多いのではないでしょうか。

保護者がサポートできなくなった後も、子どもの人生は続きます。子どもが幸せに、自分らしく生きていくためには、親が元気なうちに準備しておく必要があります。

この企画では、「親なきあと」相談室を主宰する行政書士・渡部伸先生と、自閉症児の母であり「LITALICO発達ナビ」でコラム連載を持つ立石美津子さんとの対談を通して、障害のある子の保護者が「親なきあと」に備えて何をしておけばよいのかについてお伝えします。
左:渡部伸先生(「親なきあと」相談室主宰・行政書士)右:立石美津子さん(講演家)
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発達ナビ編集部(以下、編集部)
今日は、行政書士であり「親なきあと」相談室を主宰する渡部伸先生と、自閉症のあるお子さんを育てている立石美津子さんに、「親なきあと」について知っておくべきこと、やっておくべきことなどお話いただければと思っています。

立石美津子さん(以下、立石)
私の息子は自閉症です。来年度は高校3年生になります。学校でも、就労の実習を行う機会があったり、親として就労セミナーに出席したりしています。学校卒業後の就労や、将来的にどういったところで暮らすかなど、具体的に考える時期になりました。

渡部伸先生(以下、渡部)
私は市民後見人として成年後見などにかかわるほか、「親なきあと」相談室の活動を通していろいろな場所で講演を行い、直接相談も受けています。そういう中で、たくさんの保護者の方とお話する機会があります。また、私の次女には知的障害があります。講演などでよく質問を受けることや、みなさんが不安に思っていること、疑問に感じていることなどについて、お話できたらと思います。

立石
発達ナビを見ている保護者の方は、まだお子さんが小さい場合も多いですよね。でも、就学問題などの数年先のことを考えるだけでなく、人生という長いスパンで考えてもらいたいなと思っています。学校を卒業してから、そして親なきあとのほうが人生長いですから。お子さんの将来を見据えて、子どもが小さいうちからできることを、今日は渡部さんとお話していきたいです。

編集部
先日「親なきあと」についてのユーザーアンケートを取りました。「一人で暮らせるのか。難しい場合、どこで受け入れてもらえるのか」といった暮らしの場についての悩みや、将来に備えて貯蓄をしているが、「どのくらい準備すべきか分からない」「なかなか貯められない」という声、「自分の子どもの障害の程度の場合、どんなサービスが受けられるか分からない」「お金を残しても散財しそう」といった、福祉サービスや金銭管理についての疑問も多く寄せられました。
保護者500名に聞きました!発達障害のある子の「親なきあと」の暮らしやお金についての不安や対策は?のタイトル画像

保護者500名に聞きました!発達障害のある子の「親なきあと」の暮らしやお金についての不安や対策は?

「親なきあと」のお金はどうなるの?障害年金や、就労による収入は?

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「聞きたいことがいろいろある!」という立石さん。まずはお金についての質問を。
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障害年金はいくらもらえるの?

立石
では、まず親なきあとのお金の問題について伺ってもいいでしょうか?障害のある子には、親がのこした財産以外に、どういった収入がありますか。

渡部
まずもらえるお金として考えられるのは、障害年金ですね。これは、20歳以上の障害のある人に年金が支給される制度です。受給額は障害の等級によって変わってきます。

ちなみに、障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金がありますが、障害厚生年金は厚生年金に加入している人が障害状態になった場合に支給されるものなので、ここでは障害基礎年金についてお話ししますね。

立石
障害基礎年金は、1年間でだいたいいくらぐらいもらえるんですか?

渡部
毎年変動はありますが、障害基礎年金は1級で年間974,125円、2級で779,300円です(2017年度)。また、受給者本人の所得に応じての制限があって、所得が一定額以上になると、年金額が半額になったり、全額支給停止になります。

また、障害があると受け取れる手当や医療費の助成などは、障害者手帳を持っていることが支給要件のことが多いです。要件や受け取れる額は都道府県や市区によって異なるので、確認してほしいと思います。
参考:障害基礎年金の受給要件・支給開始時期・計算方法|日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html

障害年金は、障害者手帳がないと受給できない?

立石
障害年金は、障害者手帳を持っていないと受け取れないんですか?
(注:障害者手帳には「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」の3つの種類があります。)

渡部
障害年金の判定と手帳は別な手続きなので、直接手帳の有無とは関係しません。障害年金は障害者手帳があるだけで申請できるのではなく、別の申請方法になります。ただし、年金の申請時に手帳を提出すると、障害状態を確認する補足資料になります。

立石
障害年金を申請するには、ドクターに診断書を書いてもらう必要がありますよね?でも、障害年金を申請するときには病院との関係が切れてしまっていて、子どもの状況を理解してくれているドクターが見つからないということも耳にします。

渡部
知的障害の診断書は原則精神科のドクターに書いてもらいますが、慣れていないとどう書けばいいのかわからず、お願いしても断られてしまうこともあるんですよ。

立石
子ども病院にかかっていると、18歳になるとみてもらえなくなったり、小さい頃は定期的に通院していても中高生の頃に通院しなくなることもありますからね…。まわりには、これを見越して早めに転院しているご家庭もあります。うちももう少し早く動くべきだったなと今さら後悔しているところです。

渡部
小児科のドクターが主治医の場合でも診断書は書けますが、断られることも多いと聞きますね。小児科から転院する場合に、紹介状なりをきちんと書いてもらって引き継げるとよいのですが。

立石
発達ナビのユーザーは小さいお子さんの保護者が多いと思いますが、「障害年金の申請のことも見越して、18歳以降もみてくれる病院にかかっておいたほうがいいですよ」と伝えたいです。

編集部
「(現在の)主治医にいつかみてもらえなくなるかもしれない」ということは、小さい子の保護者は気づきにくいですし、障害者手帳の申請方法を知らないことも多いと思います。

立石さんもお話してくださったように、「18歳以降どこでみてもらえるのか、ほかの病院へ紹介はしてもらえるのか、転院のタイミングはいつがよいのか」など、早めに主治医に確認しておけると安心ですね。

就労で得られる収入はどのくらい?

編集部
話を収入のことに戻したいと思います。企業に障害者枠で一般就労する場合、平均賃金はどのくらいなんでしょうか?

渡部
企業の障害者雇用枠内で働いている場合の賃金は、もちろん個人差はありますが、現状だとだいたい月に12~13万円ぐらいが平均です。なので、障害年金が満額受給できる範囲内の収入となる人が多いと言えます。障害年金の等級が2級だと年金は毎月約6.5万円。つまり、合計して1か月あたり20万円弱の収入となります。

立石
一般就労でなく、就労移行支援事業所や就労継続支援B型の場合はどうなりますか。

渡部
就労継続支援A型の事業所で月67,795 円、B型の事業所で月15,033円(平成27年度)が平均値です。就労移行支援の場合は訓練なので、原則として支払われません。

立石
就労継続支援の事業所だと賃金はぐっと低くなりますね。生活も厳しくなりそうです…。
平成27 年度工賃(賃金)の実績について | 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000151206.pdf

福祉サービスなどを活用し、出ていくお金を抑えることが大切

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立石さんや発達ナビ編集部からの質問に、一つひとつ、分かりやすく答える渡部先生。
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渡部
収入はある程度限られますから、「出ていくお金」をいかに抑えるか、ということが大事なんですよ。

立石
というと?

渡部
例えば、グループホームへの支払いについては、過度な負担にならないような仕組みがされています。国からの助成金は全国統一で1万円、それに加えて独自の助成金を出している自治体もあります。東京都の場合は、合計最大2万4千円の補助があります。

障害者手帳があると受けられるサービスや助成などを活用して、出ていくお金をなるべく抑えることが大切になります。交通機関の乗車料金や携帯電話料金の割引、上下水道の基本料金の免除のほか、医療費の助成もあります。税金についても住民税の非課税や控除、所得税の控除がされますね。手帳がなくても、ヘルパー派遣など、必要だと判断されたサービスについて支援を受けることができます。

立石
限りある財産や収入だから、行政からの助成や支援をきちんと受けられるように整えて、生活に困ることがないようにしないといけないんですね。
参考:障害者の利用者負担|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/hutan1.html
参考:障害者と税 | 国税庁
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/03_2.htm
次ページ「「親なきあと」、お金を適切に管理する方法とは?」

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