発達障害だけではない!?学校生活の困りの背景にある、「境界知能」と「認知機能」という視点ーー児童精神科医・宮口幸治先生

ライター:宮口幸治
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私は児童精神科医として、多くの発達障害のある子どもや大人をみてきました。その経験から、保護者や支援者の方が発達障害のある人に対応するときに重視してほしいと考える2つのポイントについてお話しします。

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執筆: 宮口幸治
児童精神科医
児童精神科医として、困っている子どもたちを教育・医療・心理・福祉の観点で支援する「日本COG-TR学会」を主宰し、全国で支援者向けに研修を行っている。

発達障害のある人への対応で重視したい2つのこと

これまで私は児童精神科医として少年院に勤めながら、自治体の教育相談、学校コンサルテーションなども行ってきました。

最近では「発達障害」への認知度が高まり、発達障害があることの生きづらさについても理解が深まりつつあります。今回は保護者や支援者の方が発達障害のある人に対応するときに、見逃さないでほしい2つのポイントについて、お話ししていきます。それは、「知的障害の有無」と「認知機能の弱さ」です。

1つ目は、知的障害の有無です。社会生活を送る上での困りごとは、実は、知的な障害から生じるケースがほとんどです。逆にいえば、発達障害のある人でもIQ(知能指数)が高ければ、今の社会を生き抜いていく方法はあるでしょう。例えば、自閉傾向が強くても勉強ができたら、好きな分野での研究職に就くといった選択肢が考えられます。

知的障害の認定基準は「IQ70未満」

知的障害の認定基準は、都道府県によって多少の違いはありますが、おおむね「IQ70未満」です(一部では「IQ75未満」のところもあります)。さらに日常生活での援助が必要だと認められると「知的障害」と判断されます。
そのうち、「IQ50~70」が「軽度知的障害」です。ただし、「IQ70未満」という知的障害の定義は1970年代以降のもので、それ以前には「IQ85未満」とされていた時期もあります。

みなさん、「境界知能」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。IQ70と85の境となる「IQ70~84」が境界知能です。意外に思うかもしれませんが、境界知能は日本人の7人に1人が該当(IQ100を平均とした場合、境界知能には約14%が該当)します。

境界知能と発達障害グレーゾーン

勉強が苦手な子どもの中には、知的障害には該当しないものの、この境界知能に当たる子どもたちがいます。また、はっきりと発達障害と診断はされないものの、何かしらの課題を抱える「グレーゾーン」の子どもたちもいます。

こうした子どもたちにも、本当はなんらかの支援があってしかるべきだと思うのですが、家庭や学校で見過ごされてしまうことが多々あります。

がんばれないのは「努力不足」のせい?

むしろ、「軽度知的障害」と診断を受けていたほうが特別支援学級に在籍するなど、支援の手が届きやすくなります。

でも、障害の診断はされていないのに、「授業についていけない」「周囲の子となじめない」という子どもの場合は、「本人のがんばりが足りない」「努力不足」「やる気がない」などととらえられてしまいがちです。

10歳の中に8歳の子どもが混ざるしんどさ

先にお伝えしたように、境界知能とはIQ70~84です。IQ80あればIQ100の8割なので、同じ年齢の子と比べて8割程度の知能ということです。

平均の8割あれば、そんなに心配する必要はないように思いますか?でも、考えてみてください。8割の知能ということは、10歳の子どもたちの中に8歳の子どもが混ざっているイメージです。小2の子どもが小4のクラスの授業についていくのは、しんどいことだと想像できるのではないでしょうか。

認知機能の弱さが学習のつまずきに

さらに、境界知能の子どもたちがしんどいのには、もう1つ理由があります。「認知機能」の弱さです。発達障害に対応するときに、重視してほしい2つ目のポイントです。

認知機能とは、注意、記憶、言語理解、知覚、推論・判断といった「知的機能」を指します。見る、覚える、写すといった社会生活を営むのに必要な能力で、「学習の土台」でもあります。境界知能の子どもたちの多くは、この認知機能に弱さを抱えていることが多いといわれています(知的障害や発達障害のある子どもにも、その弱さは見られます)。

例えば、「見る力」が弱いと文章を目で追いづらかったり読み飛ばしてしまったり、「覚える力」が弱いと九九や漢字を覚えられなかったり、「写す力」が弱いと板書が書き写せなかったり…学習面でのつまずきにつながります。

「自立」というゴールを目指して

このような認知機能の弱さを抱えながら、教科学習の知識を積み上げていくのは大変なことです。学年が上がるにつれて、学習内容は複雑になり、抽象度も増していきます。学習の土台がしっかりしていないところに、知識を積み上げても、子どもたちのつまずきが増すばかりです。

子どものつまずきに気づき、手を貸してあげられる大人といえば、親御さんや学校の先生方です。とくに親御さんは、子どもが「自立」するまで、共に寄り添っていく存在です。いわば、子どもの「伴走者」です。

理想の「伴走者」はつかず離れずの距離感

子どもが自発的に何かをやり始めて、つまずきながらも、目的に近づいていく。それでもくじけそうになったときに、「大丈夫だよ。いつでも手伝うよ」と安心させるのが、伴走者の役割です。

ポイントは、つかず離れずの距離感です。子どもにくっつきすぎて、やることを先回りして手伝ってばかりいると、自立を妨げかねません。一方で、親の子どもへの関心が薄かったり、困っているときに手伝えなかったりすると、子どもは不安になってしまいます。

親も一緒に認知機能の向上を目指して

最後に、学習面でのつまずきを解消するには、学習の土台である認知機能をトレーニングすることが大切です。『コグトレ・パズル』は、親御さんに専門的な知識がなくても、パズルやゲーム感覚で楽しみながら、お子さんの認知機能の向上が期待できるトレーニングです。

子どもの学習の「伴走者」として、保護者の方も一緒に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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