軽度知的障害とは?軽度知的障害の特徴と判明しやすい時期、本人に合った学習・支援方法まとめ

軽度知的障害は抽象的な内容の認識に困難さが生じることから、学習面でのつまずきや対人コミュニケーションなどの難しさを感じることが多い障害です。成長するにつれて症状が顕著に現れることから幼少期には気づかれにくく、思春期の多感な時期に診断されることがあります。抽象的な認識は苦手ですが、経験を重ねることで認識の幅を広げていくことができます。それでは紹介していきます!

軽度知的障害とは?
ことばや抽象的な内容の理解に遅れがみられることがありますが、身の回りのことはほとんど一人で行うことができます。学業面では遅れを感じることもありますが、年齢を重ねながら考える力を身につけられます。
よって幼少期には気づかれにくく、小学校高学年以降に不登校やひきこもり、うつや不安障害などにおちいってしまい、相談機関や医療機関を訪れ、その背景として軽度知的障害が診断されるケースもありますが、多くは見過ごされがちです。また自閉症スペクトラム障害などの合併症を伴っていることもあり、合併症の方が目立って表出しているケースもあります。
なお発達期とはおおむね18歳までを指し、それ以降に事故や病気などで知的機能の低下が発症しても、知的障害および軽度知的障害とは言いません。
現在の知的障害の定義の多くは、アメリカ精神遅滞協会が提唱した定義を参考にしています。以下はアメリカ精神遅滞協会が定めた定義です。
出典:http://amzn.asia/9EunXSe知的障害は、知的機能および適応行動(概念的、社会的および実用的な定期追うスキルで表される)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害である。この能力障害は、18歳までに生じる (AAMR,2002)
知能指数(IQ)と適応能力って?
適応能力とは身辺の自立(食事・着替え・排泄など)や家事、社会的な対人関係の構築、読み書き・コミュニケーションなど日常生活や社会生活上における全般的な能力のことを指します。能力の測定は、自分の強み・弱みを理解するために行います。

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知的障害の分類はどうやっているの?
知的機能が低かったとしても日常生活への適応能力が高ければ、ひとつ軽度の程度で判断されることがあります。IQ36~50の方でも適応能力が高ければ軽度知的障害に含まれます。一方で、IQ51~70の方でも日常生活への適応能力が低い場合は、中度知的障害に含まれる場合もあるということです。
このように、知的障害は知的機能検査だけで判断されるわけではなく、知的機能と適応機能の2つが評価された上で診断されます。
またこの程度を分類する方式は、療育手帳を取得する際にも用いられています。ただし、療育手帳の取得には地域差があり注意が必要です。療育手帳については8章で詳しく説明していきます。

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軽度知的障害の原因って?
内的原因
この中にはてんかんや脳性まひなどのほか、ダウン症などの染色体異常による疾病も含まれます。軽度知的障害および知的障害の原因の約8割が出生前に発生していることが分かっており、以下のような疾病があげられます。
・ダウン症
・多因子性疾患
・てんかん
・脳性まひ など
(上記にあげたものは必ずしも知的障害をともなうわけではありません。)
また、中には特に疾病名などがなくても内的原因によって知能水準が知的障害の範囲内にあるといった場合もあり、生理的要因と呼んで区別されます。
外的原因
中には軽度知的障害だけでなく、発育の遅れや中枢神経に何らかの異常をきたす恐れもあります。
また出産時のトラブルでの頭蓋内出血、出生後の感染症への感染、事故などによる発達期の頭部外傷が原因になることもあります。このことを環境要因と呼びます。
・感染症
・出産時、出産後に起こった頭部の外傷
・出産時のトラブル など

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軽度知的障害の特徴の現れ方
軽度知的障害の人の空間・時間・数量認識の特徴
◆空間の認識:
「今いる場所」「何度か行った場所」「行ったことがない場所」と、自分と空間の関係を分類した場合、軽度知的障害の方は、自分が行ったことのない場所でも、その場所が存在していることを理解することできます。
知的障害があると、目に見えないものや、抽象的な概念を理解することは苦手と言われていますが、軽度知的障害の場合はある程度はその概念を理解することもできるといえるでしょう。
◆時間の認識:
時計を見て「ご飯を食べる時間」「寝る時間」「学校へ行く時間」などと、時間帯とやるべきことを関連づけて理解できます。また過去や未来という概念も理解できます。一方で、時間の長さを計ったり、何時間後は何時になるという計算などになると、とまどうことがあります。しかし、トレーニングを積むことである程度は解消できるようになります。
◆数量の認識:
「100円玉2枚で飲み物を買うことができる」というように、自分の経験と結びつけて理解することができます。おつりがいくらになるかなど、細かい計算を瞬時に行うことは難しいですが、足し算や引き算などのトレーニングを積むことによってある程度のスピードでできるようになります。
軽度知的障害がある子どもは、自分が経験してきたことを元に物事を理解していきます。認識できる世界を広げていくためには、さまざまな経験をすることが重要です。
また、現代では地図を読んだり電車の時刻表を見たり、お金の計算をしたりといった軽度知的障害の人の苦手な部分はスマートフォンやアプリの利用によって克服できるものも多くなってきています。そういったデバイスを活用することで適応能力をアップさせることも可能と言えます。
周りの人たちが軽度知的障害の特徴に気づきやすい場面
言葉は話せても、抽象的な意味を理解したり説明したりすることが難しかったり、文字の読み書きや計算など学習面で全般的な遅れがある場合もあります。
また物事を記憶しておくことも苦手です。記憶には「短期記憶」と「長期記憶」が存在しますが、短気記憶を繰り返し思い出すことにより、長期記憶として蓄えられていくと言われています。
軽度知的障害があっても、身のまわりのことは年齢を追うごとに問題なく発達します。しかし物事を概念的にとらえて学習するよりも直接的・経験的に学ぶ方が多く、このため経験の範囲を超えた知的な要求が増える小学校高学年以降に障害があることに気づくことが多いのです。
軽度知的障害の診断基準と検査方法
臨床診断では何をするの?
■生育歴
産まれてから今までの社会性や対人コミュニケーション、言葉の発達、幼稚園・保育園での様子や1歳半健診・3歳児健診での様子などをヒアリングします。発達面で知的障害の疑いがありそうか、発達にどんな特性がありそうかなどを見立てていきます。
■行動観察
遊びの空間で子どもを遊ばせ、それを注意深く観察することと保護者の方へのインタビューに基づいて行われます。
知能検査・適応能力検査・脳画像診断など
■田中ビネー知能検査 V(ファイブ)
2歳から成人まで受けることができます。就学する5~6歳の年齢にフォーカスをあて、特別な配慮が必要かどうかを判断するための「就学児版田中ビネー知能検査V(ファイブ)」という検査もあります。子どもが興味を持てるように、検査に使われる道具が工夫されています。日常生活において必要な知能と、学習する上において必要な知能の2つを測定します。
■ウェクスラー式知能検査
ウェクスラー式知能検査は、年齢ごとに3つのテストに分類されます。
・幼児(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月)→WPPSI
・学生児(5歳から16歳11ヶ月)→WISC
・成人(16歳〜)→WAIS
全般的なIQが求められるだけでなく、個人の中の強みや苦手さを下位検査を用いて導出し、総合的に判断することができます。
■新版K式発達検査
年齢において一般的と考えられる行動や反応と、対象児者の行動や反応が合致するかどうかを評価する検査です。検査は、「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域について評価されます。検査結果としては、この3領域の「発達指数」と「発達年齢」が分かります。検査者は検査結果だけでなく、言語反応、感情、動作、情緒などの反応も記録し、総合的に判断します。
■vineland-II(全年齢)
0歳から92歳の幅広い年齢帯で、同年齢の一般の人の適応行動をもとに、発達障害や知的障害、あるいは精神障害の人たちの適応行動の水準を客観的に数値化する検査です。対象者にどんな特性があるのかを評価してくれます。また教育や福祉分野の個別支援計画の立案はVinelandの評価に基づいて行われることがあります。
その他にも適応能力の検査として、以下の検査がよく使われています。
・ASA旭出式社会適応スキル(幼児〜高)
・S-M社会生活能力検査(乳幼児〜中学生)
軽度知的障害の疑いを感じたら?
【子どもの場合】
・保健センター
・子育て支援センター
・児童相談所
・発達障害者支援センター など
【大人の場合】
・発達障害者支援センター
・障害者就業生活支援センター
・相談支援事業所
・知的障害者更生相談所 など
相談機関では、知的障害のことだけでなく子どもの発達全般について相談することも可能です。自宅の近くに相談機関がない場合には、電話での相談にものってくれることがあります。先に挙げたような検査は、機関によっては無料で受けられる場合もあります。
軽度知的障害ならではの戸惑いや合併症などの悩みって?
■軽度知的障害を受け入れることへの本人・保護者の戸惑い
思春期以降に気付かれることが多い障害であるがゆえに、本人や保護者が障害を受け入れることに戸惑いを感じることがあります。勉強についていけなかったり、対人関係が上手くいかなかったりなど、周囲から努力不足と責められ、また本人は「自分はダメだ」などと悩み、場合によっては相談もできずに自尊感情が低下することもあります。
また、保護者も子どもに対しての接し方や周囲の理解や環境のつくり方、また子どもの将来のことなどの不安要素によって戸惑いを感じることがあります。
出典:https://h-navi.jp/qa/questions/41036息子の経歴を簡単に記載します。小学校、中学校、高校ではただただ勉強が出来ない程度の子供と思っていましたが
高校卒業時に就職活動、卒業試験、普通免許の取得等の活動をしていましたが思うようにいかずに精神的におかしくなり、引きこもるようになりました。また、持病にてんかんをもっており、発作の回数が増えて主治医に相談したところ、専門の病院を紹介され、診察を受けたところ、18才で初めて知的障害であることがわかりました。
思春期以降に障害が明らかになるケースでは、以前から症状がありながらも診断を受けていなかったケースと、はじめて症状が明らかになってきたケースがあります。前者の場合は、症状がある程度みられていたため家族・親戚や学校なども、それぞれで既に本人に合わせた対応をしていることもあります。改めて話し合い、接し方や合理的配慮を考えていく必要があります。一方で後者のケースの場合は、まずは周囲への理解を得ていかなければならないため、「何からどうすればいいのか分からない」など、戸惑うことがあります。
■二次障害や合併症が原因で問題行動が起きているとき
軽度知的障害は、その特性が基となって周囲とのコミュニケーションが上手くいかないことや、不適合な環境やストレスなどが原因となって、行動面での問題が生じたり精神面での障害が生じてしまうリスクもあります。
行動面の問題としては、例えば自傷行為、徘徊、他人への攻撃、喧嘩を仕掛ける、あるいは不登校やひきこもりなどがあります。場合によっては軽度知的障害の症状よりも二次障害の症状が目立って表出する場合もあります。また最近は軽度知的障害と反抗挑戦性障害の関連性にも注目が集まっています。行動の原因は個別的であるため一人ひとりの根幹原因を見極め、調整や変更などを行うことが求められます。

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軽度知的障害との向き合い方・学校等での配慮のポイント
保護者をはじめ本人にとっても、軽度知的障害を受け入れるには時間が必要です。無理に急いで受け入れようと焦っても心理的な負担になりかねません。障害の理解や受け入れていくスピードは人によって違いがあり、その人のペースに合わせて支援が必要です。
最初のうちはショックや葛藤が生じることがありますが、本人や周囲の人が、それぞれのペースで身体的・社会的・心理的に障害を受け入れていくまで、焦らず時間をかけて関わり合うことが大切です。困った時は発達障害者支援センターや専門医など、専門家に頼りながら落ち着いた対応を心がけましょう。
■合理的配慮という観点
合理的配慮とは障害のある人が障害のない人と平等に人権を享受し行使できるよう、一人ひとりの特徴や場面に応じて発生する障害・困難さを取り除くための、個別の調整や変更のことです。
2016年4月1日に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(通称、「障害者差別解消法」)により、行政機関や事業者には、障害のある人に対する合理的配慮を可能な限り提供することが求められるようになりました。
本人を取り巻く周辺の人が合理的配慮を考える上での重要なポイントは、「その人が具体的にいつ、どんな場面で困っているのか」「その困りごとを解消するための適切な配慮は何か」の2点です。これらを踏まえながら学校や職場などの合理的配慮を検討・実施することが大切です。合理的配慮に関しては次のリンクを参考にしてみてください。

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問題となる行動をとる子どもを「困った子だ」といって疎んじたり叱ったりするのではなく、その子ども自身が何に「困っている」のか、その子が問題となる行動をとらざるを得ない原因は何なのかを理解しようとすることが大切です。
問題となる行動をとる子ども自身、その行動がよくない行動だということ理解している場合も少なくありません。
それでもなお、数少ない自己主張の方法のひとつとしてその行動をとっていたり、環境的な要因からの心理的・身体的なストレスがその背景にある場合があるのです。学校・家庭の環境をもう一度見直すことや機能分析という枠組みでの理解が有用となります。ひとりで抱えこまず、相談機関などの支援を受けるなどして解決に向けた方法を探っていきましょう。

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軽度知的障害でも療育手帳は取得できるの?申請方法もご紹介します
療育手帳の対象者は?
・標準化された知的検査によって測定された知能指数(IQ)が75以下。(70以下に規定している自治体や、70以上でも発給する自治体があるなど地域差があるので注意が必要)
・日常生活に支障が生じているため、医療、福祉、教育、職業面で特別の援助を必要とする。
上記の目安に従い、18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所において知的障害と判定された方に対して交付されます。
療育手帳の障害の程度と区分
軽度・中度・重度・最重度といったように知的障害でも4つの程度に分けられます。その分け方に関しては1章で図を用いながら紹介しました。
療育手帳の区分は基本的に重度「A」と重度以外の中・軽度「B」の2つの区分にわけられますが、自治体によって区分の分け方もより細かく区分している場合などがあり、さまざまです。
より細かい区分は自治体によって、また本人の年齢によって変わりますが、おおよそ以下の基準を目安に判定されています。ただし、これらは判定基準の一部分について例示したものであり、最終的には自治体の独自の基準によって区分が決められます。
■重度(A)
・最重度
・重度
■軽度(B)
・中度
・軽度(B/B2/4度など)
療育手帳の申請方法は?
■申請に必要な書類
・療育手帳交付申請書:自治体の福祉事務所・福祉担当窓口、またはPDFのダウンロードや郵送での取り寄せができる場合もあります。
・写真:サイズなど規定が決まっている場合があるので確認しましょう。その場で撮影してくれる自治体もあるようです。
・印鑑
・その他添付書類:通知表、成績証明書、医師による診断書などが必要な自治体もあります。
詳しい申請の流れは以下の記事をご参照ください。

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まとめ
学校の勉強に追いつけない、友達とのコミュニケーションが上手くいかない、友達関係も上手くいかないなど、周囲からの否定的な評価を受け、年齢を追うごとに自然と困難な場面に出会うことが多くなるのも一種の特徴です。学校で受けた、そういったストレスが家庭で爆発してしまうケースもあります。また、その逆のケースもありえることです。
軽度知的障害があっても、本人の認知特性に合った学習機会をつくれば、言葉や計算の力を伸ばしていくことができます。具体的な経験を積める機会を増やしたり、時間や空間などの抽象的な概念は本人の経験に結びつけて説明をするなどしてみましょう。
また、スマートフォンやアプリを活用するなど機器の利用によって補える場合も多いです。本人の自己肯定感を低下させないよう合理的配慮によって学習や社会に自信を持って参加できるような支援を行なっていきましょう。

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