ワーキングメモリが低いと「読み書きや計算が苦手」?入学前からワーキングメモリを鍛えて学習基礎力UP『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』【著者取材】

ライター:発達ナビBOOKガイド
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合同出版
ワーキングメモリが低いと「読み書きや計算が苦手」?入学前からワーキングメモリを鍛えて学習基礎力UP『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』【著者取材】のタイトル画像

「言われたことをすぐに忘れてしまう」「一度に複数のことを覚えられない」「文字を読むのが苦手」……それは、お子さんのワーキングメモリに弱さがあるからかもしれません。『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』は、学習するうえで大切なワーキングメモリを楽しく鍛える、519枚のワークシートを収録。著者の湯澤正通さんに、出版のきっかけなどを伺いました。

意識的にワーキングメモリを鍛えて学習・生活での困りごとを減らそう

ワーキングメモリとは、目や耳から入ってきた情報を一時的に記憶したり、処理したりする脳の機能のことです。

個人差はありますが、この動きが弱いと「指示をすぐに忘れてしまう」「会話がちぐはぐになる」「忘れ物やなくし物が多い」「読み書き、計算が苦手」など、生活や学習上でいろいろな問題が生じることがあります。

限局性学習症(学習障害)やADHD(注意欠如・多動症)がある子どもは、定型発達の子どもに比べて、ワーキングメモリのある部分が極端に弱いことがあると言われています。ワーキングメモリを意識的に鍛えることで、学習や生活での困りごとを減らすことが期待できます。
ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート: 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング
湯澤正通 (著)
合同出版
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「音声情報」と「視空間情報」の2種類のワークでトレーニング

『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』は言葉や数などの音声情報を扱う「言語編」とものの位置や形などの視覚情報を扱う「視空間編」の2種類で構成されています。言語編には15、視空間編には18のユニットがあり、子どものつまずきにあわせて、実施するワークシートを選ぶことができます。保護者や先生など支援者の方が活用しやすいように、ねらいや働きかけのポイントも詳しく解説しています。

同じユニットが「支援者用」と「こどもよう」に分かれているのも特徴です。支援者用シートには問題の説明や質問が書いてあり、そのまま読み上げて使うことができます。

湯澤正通さんにインタビュー!ワーキングメモリを鍛えるワークを作ろうと考えた理由は?

著者の湯澤正通さんは、ワーキングメモリ理論に基づいた教育支援の第一人者です。ワーキングメモリを鍛えることで、どんなねらいや利点があるのか、また『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』出版への思いなどを伺いました。

編集部(以下――)『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』(以下『本書』)を出版するきっかけや経緯を教えてください。

湯澤さん(以下湯澤):私たちは、子どもがパソコンなどを使って、ゲーム感覚で課題をしながらワーキングメモリの診断を行うプログラムを開発し、特別支援の教師や保護者など支援者の方に使用していただいていました。このプログラムを使って、学習などに困りごとがある子どものワーキングメモリを調べ、その原因を推測することで、支援の方向性をアドバイスしてきました。

その中で、どのような支援を行うとよいのか、具体的な手立てを支援者や保護者のみなさんから求められるようになりました。

私はこれまで、小学校や中学校の現場に入り、小学校の入学時に行ったワーキングメモリのアセスメントによって、その後の学習等の問題を予測できること、また、早期から支援を始めるとその問題を防ぐことができることを実感していました。

そこで、これまで子どもたちの支援で使用してきた教材をワークシートという形で一般の方々が利用できるようにしたわけです。

※HUCRoW:Hiroshima University Computer-based Rating of Working Memoryの略。ゲームによりワーキングメモリの4つの構成要素のアセスメントを行う。
参考:HUCRoW |一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会
https://www.ewmo.or.jp/hucrow/

小学校入学に向けての準備にも!

――この本は、主に就学前のお子さんを対象としていると思いますが、小さいお子さま向けのワークシートとして、どういったところを工夫されましたか?

湯澤:保護者や教師などの支援者がワークシートを使って子どもと一緒に音声やイメージの活動を楽しく行えるようになっています。そのため、支援者用シートと子ども用シートに分かれています。シートは、付属のCDかQRコードから、家庭や学校で印刷して使用します。本書には、シートの使い方の手順が具体的に書かれていますが、支援者は、必ずしもその通りに行う必要はなく、子どもがより楽しめるように変更して使用してもらって構いません。

――就学前からトレーニングすることで、小学校入学後に向けて、どのような準備ができると考えていますか?

湯澤:読み書きや計算は、小学校に入学後、正式に学習が始まりますが、入学以前に、それらの学習の基礎になる知識やスキルを多くの子どもが身につけています。小学校入学時点で、それらのスキルを身につけていないと、入学後の国語や算数の学習に遅れや困難が生じます。この本は、小学校入学時点で必要な、読み書きや計算の基礎になる知識やスキルの習得を促すことをねらいとしています。

――小学校入学後に活用するお子さんも想定されていますか?その場合どのように活用してほしいと考えていますか?

湯澤:読み書きや計算の学習の基礎になる知識やスキルが身についていないと、小学校入学後、学習に遅れや困難が生じます。困難を抱えた子どもたちが、読み書きや計算の学習の基礎に立ち返って、学び直すことで、遅れや困難を克服することができると考えています。国語や算数のどこに弱さがあるのかを見極めて、シートを選択的に活用していただければと思います。

――ワーキングメモリを伸ばすことによって、どのような利点があるのかを教えてください。

湯澤:ワーキングメモリは、学習や思考などの人間の知的活動を支えています。学習の遅れや困難の問題を解決するだけでなく、今の教育の目標でもある学習や思考を活用する力を伸ばすことにつながります。

――ワーキングメモリをトレーニングする中で、実際にお子さんにこのような変化があった、などの印象的なエピソードがありましたら教えてください。

湯澤:小学校1年生のケースです。1年の6月時点で、かな文字の半分ほどしか、読み書きができませんでした。特に、拗音や促音はまったく読み書きができませんでした。放課後、週1回1時間、言葉遊びなどを通して、言葉を意識的に考え、言葉を構成する音と文字の関係の学習を支援しました。その結果、小学校1年の終わりごろには、かな文字をほぼ正しく読み書きできるようになりました。

――すごい効果ですね!本書の内容についてお聞かせください。まず、「Part1.言葉の記憶機能を高める」のトレーニングにおいてのねらいやポイント部分などを教えていただけますか。

湯澤:Part1のトレーニングは、左脳の「言語性ワーキングメモリ」を用いる活動から構成されています。音声情報(言葉)の記憶と処理のトレーニングを行うことで、言語的知識の獲得を促すことがねらいです。小学校入学前、子どもは、言葉遊びなどを通して言葉を意識的に考え、言葉を構成する音に文字があることに気づき、それが小学校での文字の学習につながっていきます。

ワーキングメモリに弱さがあったり、幼児期の遊びの経験が不足したりすると、言葉を意識的に考える力が育ちづらく、小学校入学後、文字の読みの学習に遅れや困難が生じることがあります。Part1では、言葉を意識的に考え、文字や文を読む力を育てていきます。
『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』P18-19
『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』P18-19
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ワーキングメモリが低いと「読み書きや計算が苦手」?入学前からワーキングメモリを鍛えて学習基礎力UP『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』【著者取材】の画像
Part1.言葉の記憶機能を高めるワークシート(本書付録CDに収録)
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――「Part2. 視空間の記憶機能を高める」のトレーニングにおいてのねらいやポイント部分などを教えてください。

湯澤:Part2のトレーニングは、右脳の「視空間性ワーキングメモリ」を用いる活動から構成されています。イメージの記憶と処理のトレーニングを行うことで、文字や数量の知識の獲得を促すことがねらいです。

かな文字や漢字は線や形のパーツの組み合わせから構成されています。線やパーツの知識が増えると、その組み合わせによって、漢字などの文字の学習が促されます。

Part2では、まず、文字を構成する線や形を認識し,書くトレーニングを行い、その知識を身につけます。また、算数の学習には、対象の数のイメージを把握し、それを数の音声情報と対応づけ、操作する必要があります。対象の数のイメージを把握したり、操作したりするトレーニングを行い、数量の知識の獲得を促すことで、算数の学習を支援します。
『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』P66-67
『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』P66-67
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『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』Part2.視空間の記憶機能を高める
Part2.視空間の記憶機能を高めるワークシート(本書付録CDに収録)
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――ワーキングメモリを伸ばすために、本書をどのような方に、どのように活用してもらいたいですか。ご家庭や支援の現場などでの使い方のポイントなどあれば教えてください。

湯澤:2022年12月に発表された文部科学省の調査によると、通常学級に在籍する小中高生の8.8%に発達障害がある可能性があり、学習や行動に困難を抱えているということでした。特に、小学校では、10.4%と高くなっています。こうした子どもに、実際に「発達障害」があるかは分かりませんが、少なくとも、教師によって何らかの課題を抱えていると認識されているということです。

そうした子どもの多くは、学習上の問題を抱えています。それを解決するために、この本を活用していただければと思います。そうした子どもの問題は、小学校の入学後、顕在化するものの、小学校の入学前の幼児期のときから、語彙が少ない、言葉遊びがうまくできない、文字に興味を示さないなどの現象として見られます。こうした現象をいずれ解決するだろうと放っておくのではなく、予防的な介入を行うことが大切だと考えています。その際、本書を活用していただければと思います。
参考:通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について|文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2022/1421569_00005.htm
――ポータルサイト「発達ナビ」は、発達障害のあるお子さまの育児をされている保護者の方や、支援者の方に多くご覧いただいています。皆さまへメッセージをお願いします。

湯澤:人によってそれぞれ個性が異なり、強いところ、弱いところを持っています。大人も子どもも同様です。ただし、子どもは、自分の個性を自覚し、それに応じて学習や行動をしていくことができません。保護者や支援者の手助けが必要です。保護者や支援者は、子どもの個性を把握し、強い部分を伸ばし、弱い部分を補っていけるように、共に学んでいきましょう。すべての子どもたちが希望のある未来を切り開くことができる社会を作ることが私たちのつとめです。

楽しんで取り組んでいるうち、自然とワーキングメモリの力がアップ!

子どものつまずきに合わせて自由に使うことができる『ワーキングメモリがぐんぐんのびるワークシート 学習の基礎をつくる記憶機能トレーニング』。イラストはシンプルで分かりやすく、オールカラーで楽しく取り組むことができます。

就学準備で学習に不安がある方はぜひ、お手にとってみてください。「なんとなく、楽しそう!」と遊び感覚で取り組んでいくうちに、ワーキングメモリが鍛えられていくはずです。

文/糸井千晶
【書籍監修】湯澤正通(ゆざわ・まさみち)
広島大学大学院人間社会科学研究科教授。東京大学文学部心理学科卒業。ワーキングメモリ理論に基づいた教育支援の第一人者。ワーキングメモリの特性がわかるアセスメントシステム「HUCRoW」(フクロウ)を開発。主な著書に『知的発達の理論と支援─ワーキングメモリと教育支援』(金子書房)、『ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援―学習困難な子どもの指導方法がわかる!』(共著、学研プラス)など多数。
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コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。


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