グループホームをトラブルで退去!親なきあと、障害がある子の「住まい」問題 【専門家体験談】

ライター:専門家体験談
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障害があるわが子の将来を考えたときに、「住まい」が心配という保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、「親なきあと」について多くの相談を受けている渡部伸先生の体験談をお届けします。

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監修: 渡部伸
行政書士
親なきあと相談室主宰
社会保険労務士
慶應義塾大学法学部卒後、出版社勤務を経て、行政書士、社会保険労務士、2級ファイナンシャルプランニング技能士などの資格を取得。現在、渡部行政書士社労士事務所代表。自身も知的障害の子どもを持ち、知的障害の子どもをもつ親に向けて「親なきあと」相談室を主宰。著作、講演など幅広く活動中。

グループホームで利用者とトラブル・退去することに

はじめに、自閉スペクトラム症(ASD)と知的障害があるお子さんの保護者の方から、成人したお子さんの住まいについてご相談を受けたケースをご紹介します。

ご相談内容

グループホームに入居したものの、ほかの利用者とトラブルをたびたび起こしてしまいました。施設の方と話し合いを重ね、最終的には退去することに。再び実家で一緒に暮らし始めたのですが、これからの事を考えると不安が募ります。

本人の意思を確認し、家族で無理のない選択を

自閉スペクトラム症のあるわが子が「グループホームでほかの利用者とトラブルを起こしてしまって…」と相談を受ける。「福祉サービスを利用しながら一人暮らしをしている人もいますよ」と答える。
親なきあとの「住まい」について相談を受ける
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「親なきあと」についてのご相談では、「仕事」「お金」と並び「住まい」に関するお悩みがよく聞かれます。

まず、このお子さんが利用していたグループホームとは、国の障害福祉サービスの一つで共同生活援助のことです。一つの住居の利用者数の平均は6名程度ですので、ほかの利用者と一緒に過ごすのが苦手な人の場合は、ストレスをためてしまうことがあります。
共同生活援助(グループホーム)
障害者につき、主として夜間において、共同生活を営むべき住居において行われる相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他の必要な日常生活上の援助を行います。

引用:障害福祉サービスについて|厚生労働省
出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaish...
「親なきあと」のことを考える際に大切なのは、ご本人の希望と、親御さんの思い、どちらも大切にしながらできるだけ無理のない選択をすることです。

親御さんが将来に不安を感じている一方、お子さんも実家を出て生活したいと考えているかもしれません。共同生活が難しいということであれば、一人暮らしという選択肢についても考えてみましょう。実際に、福祉サービスを利用しながら一人暮らしをしている人も多くいます。

アパートなどで生活しながら利用できる福祉サービスについては、主に2つ考えられます。まず、介護が必要という状態でなければ、「居宅介護」という選択肢があります。
居宅介護
居宅において、入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助を行います。

引用:障害福祉サービスについて|厚生労働省
出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaish...
常に介護が必要という状態であれば、「重度訪問介護」を受けられる可能性があります。ただし、地域によってかなり状況が異なるため、相談支援事業者で計画相談支援を受けると良いかもしれません。
重度訪問介護
重度の肢体不自由者又は重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって常時介護を要するものにつき、居宅において入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助並びに外出時における移動中の介護を総合的に行うとともに、病院等に入院又は入所している障害者に対して意思疎通の支援その他の支援を行います。(日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援を含む。)

引用:障害福祉サービスについて|厚生労働省
出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaish...
ご相談いただいた親御さんには、上記のほかに日常生活自立支援事業、成年後見制度についてもご説明をしたうえで、現在つながっている支援者や通所している事業所の方を含めて検討いただくようお伝えしました。
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学生の頃からショートステイを定期的に利用

もう一つのケースをご紹介します。知的障害のあるお子さんが中学1年生のころに、親御さんが遠い親戚の実家に行かなければならず、初めてグループホームのショートステイを利用することになりました。
親御さんが迎えに行って帰宅したあと、特にお子さんに変わった様子はなかったのですが、その5年後に再び同じショートステイを利用したところ、帰宅していきなり「気持ちが悪い」と言い、嘔吐してしまったそうです。

医師に診てもらっても特に健康状態などに問題はないとのこと。親御さんは心配になり念のためショートステイ先にどんな様子だったか聞いてみたところ、理由が判明。どうも周りの人たちに気を遣って我慢をするなど「いい子ちゃん」をしていたようだったのです。その無理が自宅で出てしまったということですね。

そこで、親御さんは「もしも、自分たちがいなくなったらどれだけつらい思いをするのだろう」と考えて、それからは毎月ショートステイを利用するようになりました。

もともと人が好きなお子さんだったので、少しずつ慣れてワガママも言えるようになり、家にいるときの何倍も楽しそうに、ウキウキとショートステイに出かけるようになったそうです。

お子さんが成人してから「住まい」について考え始める親御さんが多いかと思いますが、もう少し早くから準備を始めることで、親子にとってより良い選択ができるかもしれませんね。
短期入所(ショートステイ)
居宅においてその介護を行う者の疾病その他の理由により、障害者支援施設、児童福祉施設等への短期間の入所を必要とする障害者等につき、当該施設に短期間の入所をさせて、入浴、排せつ及び食事の介護その他の必要な支援を行います。

引用:障害福祉サービスについて|厚生労働省
出典:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaish...
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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