帰国後、父親を失い、環境の激変に口が利けなくなり周囲から心配される

帰国後、地元の小学校に通うが学校で言葉が話せなくなるワッシーナ
帰国後、地元の小学校に通うが学校で言葉が話せなくなるワッシーナ
Upload By ラクマ/ワッシーナ/ニャーイ
ハワイでのびのびと過ごしていた私ですが、そんな状況が一変する出来事がありました。父が急に体調を崩し、家族みんなで帰国することになったのです。しかし、帰国しても父の病状は回復せず、しばらくして亡くなりました。

父が亡くなったあと、私は地元の小学校に通い始めましたが、あまりに急激な環境の変化に、どうしても馴染めませんでした。授業では元気よく質問する子どもや失敗する子どもなどおらず、みんな同じように行動するように指導され、とても戸惑いました。

私は入学してからひと言も口を利くことができず、先生やクラスメイトたちから話しかけられても言葉を発することができませんでした。その頃は、休み時間になると誰もいない静かな校舎の裏で、一人でじっと座って過ごすことで、すり減った心を充電していました。自宅に帰ると会話をすることができるのですが、どうしても学校で口を利くことができませんでした。母や周りの大人は、そんな私を見て、とても心配していたようです。

ある学年末の最終日のことです。ホームルームの時間に担任の先生が、結婚のため学校を辞めてハワイに移住することになったということで、クラスのみんなに別れの挨拶をしました。ホームルームが終わると、私は先生のところに走っていって、話しかけました。家族で買い物をしたハワイのカラカウア通り、父と遊んだ太陽がいっぱいのワイキキビーチなどを夢中で話しました。私は、ハワイに移住する先生に対して、まるで仲間を見つけたような親近感を覚えたのです。

これまでひと言も口を利かず、障害があるのではないかと私のことを案じていた先生は、いきなり雄弁になった私を見て、ものすごく驚いたようです。後日、先生は「初めてワッシーナさんの声を聞きました」と、私の母にその時の様子を語ってくれたそうです。

私はこのことをきっかけに、少しずつ学校でも口が利けるようになりましたが、あまり会話ができない傾向は小学校の高学年まで続きました。

感覚の過敏や独特の表現が誤解され、厳しくしつけられる

化繊の下着を床に叩きつけて拒否する小学生のワッシーナ
化繊の下着を床に叩きつけて拒否する小学生のワッシーナ
Upload By ラクマ/ワッシーナ/ニャーイ
帰国して再び沖縄で暮らすようになって、私の目の前にいきなり母が登場しました。私を産んだ実の母ですから、ずっと一緒だったはずですが、私の視界には父しかおらず、母は存在していませんでした。

母は父とまるっきり異なるタイプでした。一緒に公園へ遊びに行っても、すべり台やブランコで遊ぶのは私一人で、母は離れたところでじっと見ているだけでした。父と一緒に想像遊びをすることに慣れていた私は、母の味気ない対応にものすごく失望しました。

母はしつけが厳しく教育熱心で、私の感覚過敏などの特性を受け入れてくれなかったので、ことあるごとに母と衝突を繰り返していました。

ある日、母がおろしたての化繊の肌着を着せてくれました。ところが私は化繊独特の匂いと肌触りに悪寒が走りました。すぐさま肌着を脱ぐと床に叩きつけました。「宇宙人に侵略される匂いだ!」と、私は叫んだのです。母は私の言うことが理解できず、わがままだと誤解して、厳しく叱りました。

その後、私は思春期を迎えましたが、クラスメイトとガールズトークができなくて、よくトイレに逃げこんでいました。高校では担任教師の無理解からいじめを受け、一年間、不登校になりました。ほかの先生方の好意でレポート課題の提出で成績評価してもらい、なんとか卒業することができました。

結婚後は、子どもたちの学校でのトラブルをきっかけに、子どもたちが専門家から発達の偏りを指摘されました。その後、発達凸凹当事者の家族として、療育施設でさまざまなトレーニングを受けました。そのトレーニングを通して、私自身も当事者だと気づき、やっと安心して自分らしく生きられるようになりました。

今は、家族で日々楽しみつつ、工夫をしています。工夫は重ねるほど発見が増えて楽しくなるので、家族に喜びがあふれるようになりました。
執筆/ラクマ/ワッシーナ/ニャーイ
(監修:室伏先生より)
ワッシーナさん、ご自身のご経験をお話しくださり、ありがとうございました。
ワッシーナさんは、お父様を亡くされるという大きな苦しみや悲しみに加えて、周囲の理解をなかなか得られずにさまざまなご苦労をされ、それらを乗り越えていらっしゃったのですね。特性による困難さというのは、実際に経験していなければ、想像はできても理解したり共感したりということが難しいこともあります。ワッシーナさんは、ご家族の最大の理解者であり、お子様にとって、そのようなお母様がいらっしゃることは最大の強みの一つだと思います。これからも、困難に負けず、喜びと笑顔のあふれるお時間を過ごしてほしいなと、私も応援しております。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
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