「子育てから逃げたい」保護者の心の余裕を確保するには?発達障害の子との向き合い方8つのヒントも【精神科医・田中康雄】
ライター:田中 康雄
「自分の気持ちを安定させる方法は、なんですか?」ペアレントトレーニングの紹介をしたとき、参加された保護者の方に尋ねたことがあります。その時、印象的だったのはーー。
執筆: 田中康雄
北海道大学名誉教授
医療法人社団倭会 こころとそだちのクリニック むすびめ 院長
発達障害の特性を持つ子どもとその家族、関係者と、つながり合い、支え合い、認め合うことを大切にした治療・支援で多くの人から支持されている。
医療法人社団倭会 こころとそだちのクリニック むすびめ 院長
子どもの気持ちを想像してみる
発達障害やグレーゾーンのお子さんといっても十人十色、それぞれの思いを持って日々を送っています。そうした子どもたちの気持ちに近づくには、前回のコラムで、個々の脳のタイプを理解して、便利に生活できるための具体的で適切な関わりにより生活が安定すると書きました。
【精神科医・田中康雄】「怒る」「ルールを守らない」はどうして?特性の理解から、その子の唯一無二の「思い」を探して
でもそれが、保護者にとってはどうにも難しいということも僕は承知しています。
分かっていても、常に平常心で向き合えない。分かるからこそ、そこをもう少し、なんとかならないかなぁと、ついつい思ってしまうものです。保護者であればこその思いと言ってもよいかもしれません。
分かっていても、常に平常心で向き合えない。分かるからこそ、そこをもう少し、なんとかならないかなぁと、ついつい思ってしまうものです。保護者であればこその思いと言ってもよいかもしれません。
昔、家族会のような集まりで、ある家族が「家族だって、家族だから、時には逃げ出したくなることもあります。でも逃げることはできないんです」と話されたとき、改めて「家族の強さとつらさ」を学びました。
「子どものために頑張る」の前に
今回監修させていただいた『発達障害・グレーゾーンの子どもが見ている世界』のchapter2では、保護者の方に意識してほしい8つのヒントが並んでいます。
でもその前に、扉に書かれている「親の心の余裕」こそがもっとも大切なことなのです。ヒント1から読む前に、保護者の方には自分の「心の余裕」にどう気遣えばよいかをまず考えてほしいと思います。
でもその前に、扉に書かれている「親の心の余裕」こそがもっとも大切なことなのです。ヒント1から読む前に、保護者の方には自分の「心の余裕」にどう気遣えばよいかをまず考えてほしいと思います。
これもはるか昔に、ペアレントトレーニングの紹介をしたとき、参加された保護者(すべて母親)の方に「皆さんが自分の気持ちを安定させる方法ってなんですか?」と尋ねたことがありました。
Aさんは、家族全員が寝静まったあとに窓辺に座って、こっそりと隠していた高級チョコレートとウィスキーを飲みながら夜空を見ることと話しました。
Bさんは、これも家族全員が寝静まったあとで、当時流行っていた韓流ドラマを見続けることと語りました。
Cさんは、月に1回、小さい部屋に閉じこもり「今日は1日一切の家事をしません」宣言すると言いました。「天の岩戸」と呼ぶこの作戦は、結果父親が子どもと一緒に三度の食事をつくり、母の部屋の前に運び、洗濯と掃除を分担するという一大行事となっていると言いました。
皆さんが、こうした話をされた瞬間、「自分が主役」になったような表情で晴れ晴れと語っていたのが印象的でした。子どものために頑張る前に、自分自身にささやかなご褒美を贈ることが、実は一番大切なことなのかもしれないと学びました。
どうか保護者の皆さんも、この8つのヒントを読む前に、自分自身にささやかなご褒美を贈ることを考えてあげてください。なにを贈りますか?
Aさんは、家族全員が寝静まったあとに窓辺に座って、こっそりと隠していた高級チョコレートとウィスキーを飲みながら夜空を見ることと話しました。
Bさんは、これも家族全員が寝静まったあとで、当時流行っていた韓流ドラマを見続けることと語りました。
Cさんは、月に1回、小さい部屋に閉じこもり「今日は1日一切の家事をしません」宣言すると言いました。「天の岩戸」と呼ぶこの作戦は、結果父親が子どもと一緒に三度の食事をつくり、母の部屋の前に運び、洗濯と掃除を分担するという一大行事となっていると言いました。
皆さんが、こうした話をされた瞬間、「自分が主役」になったような表情で晴れ晴れと語っていたのが印象的でした。子どものために頑張る前に、自分自身にささやかなご褒美を贈ることが、実は一番大切なことなのかもしれないと学びました。
どうか保護者の皆さんも、この8つのヒントを読む前に、自分自身にささやかなご褒美を贈ることを考えてあげてください。なにを贈りますか?
8つのヒントを別の角度から
さて、本書で述べている8つのヒントについて、ちょっと別の角度で綴ってみます。
1.注意や小言は少なめにして、褒めポイントを見つける
普段の生活で「すごいね」「ありがとうね」「えらいなぁ」という敬意を込めた言葉を口癖にすると、これは楽になります。「褒めよう」と気張ってしまうと、どこか無理やり感があり、とってつけたような言い方になります。特別に意識しないで言葉が出るように心がけてみるとうまくいくこともあります。
2.成長スピードやできないことを周りの子と比べない
僕はけっこうできないことが多く、注意叱責の子ども時代を送っていました。なので、目の前に来てくれた子どもの様子をみると、同じ年頃の僕には到底できないことがこの子にできる、と思って、本当に感心してしまうのです。心底たいしたものだと思ってしまいます。ひょっとすると、これは単に僕が歳をとり、とても寛容になったのかもしれません。わが子より孫を可愛がる祖父の心境なのかもしれません。それでも1年1年関わっていると、背が伸びた、口が達者になっただけで、すごいなぁと思います。
3.子どもの一番の味方で、安心できる居場所になる
これは、僕のような医療者は絶対できないことで、おそらく保護者の専売特許です。どんなに怒り、あきれても、保護者は最後に「でも放っておけない」「でもかわいいと思ってしまう」と口にするときがあります。保護者にとっても、わが子といる瞬間に「安心」という喜びをもらっているのかもしれません。
4.言うことを聞いてくれなくても、感情的にならない
これは、とても難しく、無理といってもよいでしょう。僕は逆に、保護者は、感情的になったときに、あとで振り返り次回はそうならないような工夫を、対応策を、検討し続けることしかできないと思っています。こうした失敗をうやむやにしないで向き合い続けることで、自分自身が他者に、わが子に優しくなれるような気がしています。
5.子どもの困った行動をあらかじめ「回避」することも大切
保護者はわが子が陥りやすい状況、場面を実はだれよりも熟知しています。きっとこうなる、ほらやっぱりとなりやすいものです。その予想が外れる時は、その子が保護者の思いを超えて「成長した」ためで、喜んでよいことです。でも多くの場面では、想定内にことが運ばれます。意外な展開は少ないのが現実です。結果が予測できるのであれば、それを回避することもできるはずです。それがなぜ難しいかは、僕たちはどうしても挑戦してステップアップしてほしいという「願い」があるからにほかありません。
回避することは、逃げることは、いけないことではありません。「逃げるは恥だが役に立つ」というテレビドラマのタイトル(これはハンガリーのことわざからきているそうです)ではありませんが、子どもに想定内で失敗体験を積ませるよりも、ほんの少しでも成功体験を積ませる。そのために、転ばぬ先の杖よりも、転ばせないための手段を優先するわけです。でも、もし、子どもがやりたい、頑張ってみたいとしたら、その時はハラハラしながら見守りましょう。うまくいかなかったとしてもその決心に、うまくいけばその努力を、褒めることができます。
6.一人で抱えこまず、周りの人を頼る
これも頼ることは抵抗があるかもしれませんが、役立ちます。昔から三人寄れば文殊の知恵というように、一人よりもよい知恵が、対策が生まれるものです。一人で抱えこむと、とても寂しくなります。遠慮なく周囲にSOSを出しましょう。
7.がむしゃらに頑張るだけでなく、息抜きや休息を大切に
これこそ「天の岩戸」作戦です。保護者が倒れたら誰がこの子を支えるのかと考えると、保護者に心身の安定、健康こそが大切なことです。
8.園や学校に行きたがらないなら、無理に行かせない
これは、行きたくないといったらすべて撤退するということではありません。行きたくないと語る、態度を示すわが子のつらさを保護者がどう感知するか、生活状況から推測して判断することになります。
実はその判断は日々揺れるはずです。「無理に行かせない」といってもちょっと押したほうがよいかな、静観したほうがよいかな、と日々保護者の思いは揺れ続けます。そんな時、未来に対してこの子の成長を信じ、周囲の信頼できる方々と相談し、家族で話し合いをし、それでも悩み続けるなかで日々苦渋の選択をするものです。
普段の生活で「すごいね」「ありがとうね」「えらいなぁ」という敬意を込めた言葉を口癖にすると、これは楽になります。「褒めよう」と気張ってしまうと、どこか無理やり感があり、とってつけたような言い方になります。特別に意識しないで言葉が出るように心がけてみるとうまくいくこともあります。
2.成長スピードやできないことを周りの子と比べない
僕はけっこうできないことが多く、注意叱責の子ども時代を送っていました。なので、目の前に来てくれた子どもの様子をみると、同じ年頃の僕には到底できないことがこの子にできる、と思って、本当に感心してしまうのです。心底たいしたものだと思ってしまいます。ひょっとすると、これは単に僕が歳をとり、とても寛容になったのかもしれません。わが子より孫を可愛がる祖父の心境なのかもしれません。それでも1年1年関わっていると、背が伸びた、口が達者になっただけで、すごいなぁと思います。
3.子どもの一番の味方で、安心できる居場所になる
これは、僕のような医療者は絶対できないことで、おそらく保護者の専売特許です。どんなに怒り、あきれても、保護者は最後に「でも放っておけない」「でもかわいいと思ってしまう」と口にするときがあります。保護者にとっても、わが子といる瞬間に「安心」という喜びをもらっているのかもしれません。
4.言うことを聞いてくれなくても、感情的にならない
これは、とても難しく、無理といってもよいでしょう。僕は逆に、保護者は、感情的になったときに、あとで振り返り次回はそうならないような工夫を、対応策を、検討し続けることしかできないと思っています。こうした失敗をうやむやにしないで向き合い続けることで、自分自身が他者に、わが子に優しくなれるような気がしています。
5.子どもの困った行動をあらかじめ「回避」することも大切
保護者はわが子が陥りやすい状況、場面を実はだれよりも熟知しています。きっとこうなる、ほらやっぱりとなりやすいものです。その予想が外れる時は、その子が保護者の思いを超えて「成長した」ためで、喜んでよいことです。でも多くの場面では、想定内にことが運ばれます。意外な展開は少ないのが現実です。結果が予測できるのであれば、それを回避することもできるはずです。それがなぜ難しいかは、僕たちはどうしても挑戦してステップアップしてほしいという「願い」があるからにほかありません。
回避することは、逃げることは、いけないことではありません。「逃げるは恥だが役に立つ」というテレビドラマのタイトル(これはハンガリーのことわざからきているそうです)ではありませんが、子どもに想定内で失敗体験を積ませるよりも、ほんの少しでも成功体験を積ませる。そのために、転ばぬ先の杖よりも、転ばせないための手段を優先するわけです。でも、もし、子どもがやりたい、頑張ってみたいとしたら、その時はハラハラしながら見守りましょう。うまくいかなかったとしてもその決心に、うまくいけばその努力を、褒めることができます。
6.一人で抱えこまず、周りの人を頼る
これも頼ることは抵抗があるかもしれませんが、役立ちます。昔から三人寄れば文殊の知恵というように、一人よりもよい知恵が、対策が生まれるものです。一人で抱えこむと、とても寂しくなります。遠慮なく周囲にSOSを出しましょう。
7.がむしゃらに頑張るだけでなく、息抜きや休息を大切に
これこそ「天の岩戸」作戦です。保護者が倒れたら誰がこの子を支えるのかと考えると、保護者に心身の安定、健康こそが大切なことです。
8.園や学校に行きたがらないなら、無理に行かせない
これは、行きたくないといったらすべて撤退するということではありません。行きたくないと語る、態度を示すわが子のつらさを保護者がどう感知するか、生活状況から推測して判断することになります。
実はその判断は日々揺れるはずです。「無理に行かせない」といってもちょっと押したほうがよいかな、静観したほうがよいかな、と日々保護者の思いは揺れ続けます。そんな時、未来に対してこの子の成長を信じ、周囲の信頼できる方々と相談し、家族で話し合いをし、それでも悩み続けるなかで日々苦渋の選択をするものです。
子どもたちの成長は、日々付き合っていると大変な思いもあるのですが、振り返るとあっという間の時だったなぁと思うようなこともあります。
そんな必ず来ることを信じて、関わり続けてほしいと思います。僕も応援し続けています。
そんな必ず来ることを信じて、関わり続けてほしいと思います。僕も応援し続けています。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。