母子共に強迫性障害。自助グループで学んだ仕事や子育てにも活かせる「恐怖や不安との付き合い方」

ライター:立石美津子
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知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)のある現在23歳の息子は、私と同じく強迫性障害(強迫症)です。
私は自助グループに通っていますが、そこで学んだ考え方は発達障害のある子どもの育児をするときにも参考になります。

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監修: 森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
ゆうメンタルクリニック・ゆうスキンクリニックにて勤務。産業医として一般企業のケアも行っている。 ・ゆうメンタルクリニック(上野/池袋/新宿/渋谷/秋葉原/品川/横浜/大宮/大阪/千葉/神戸三宮):https://yuik.net/ ・ゆうスキンクリニック(上野/池袋/新宿/横浜):https://yubt.net/

母子共に強迫性障害(強迫症)

私は23歳の時、強迫性障害(強迫症)を発症して入院していました。
現在23歳の息子も23歳、ASD(自閉スペクトラム症)、知的障害(知的発達症)のほかに強迫性障害(強迫症)があり通院中です。
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中2で強迫性障害。自閉症息子の異変に気づけたのは私にも経験があったから…

私が実際に行った強迫性障害(強迫症)の治療には、薬物療法だったり、認知行動療法だったり、認知行動療法の中の暴露法だったり、森田療法などがあります。

私は患者の会である自助グループに参加しているのですが、良い意味でとても凄く理屈っぽい議論が交わされ、多くの学びを得ています。ます。
ただ、知的障害(知的発達症)のある息子には理解しにくい内容なので一緒には連れて行っていません。
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不安という感情を抱えながらなすべきことをなす

私はある自助グループに通うようになり、このようなことを学びました。
不安があったとき、みなさんはどのように考えますか? 例えば飛び込み台から飛び込まなくてはならない状況の時、

A.飛び込むのを止める
B.「怖くない、怖くない」と不安をかき消す言葉をかけながら飛び込む
C.「怖い」と思いながらも、行動する。飛び込こんでみる

飛び込み台の例は極端ですけれども、A.飛び込むのを止めると、これ以降も飛び込むことができできなくなります。
B.怖くないという感情に意識が行きすぎてしまうと、反対に「怖い」という感情が強化されてしまいます。不安をかき消そうと不安にスポットを当てれば当てるほど、不安が増大してしまうからです。
C.のように自分の自然の感情に蓋をしないで、その思いを持ちつつもともかく行動してみます。すると飛び込めた事実によって自信がつきます。

このことを他のケースに当てはめてみたいと思います。
私は著者で講演依頼を受けることもあるのですが、依頼を受けた時、とても苦しく不安な気持ちになります。というのも、緊張しすぎてお腹が痛くなるからです。過敏性腸症候群です(身体的には病気ではないのに、腸がギュルギュルしてしまう)。
これを先ほどの例に当てはめると3つの方法があります。

人前でスピーチをしなくてはならない時、

A.話をすることをやめて、依頼を断る
B.「あがってはならない」「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせてスピーチに臨む
C.不安、恐怖を抱えながらなすべきスピーチを行う

人は自分の感情を自分の気合や努力で何とかできると思ってしまいますが、心臓や胃の動きを自分でコントロールできないように、自然に沸き起こる恐怖を自分の力でなくすことはできません。
不安という感情はそのままにして、なすべきこと(飛び込む、スピーチをする)に意識を向け、それを行う。
飛び込めた、スピーチできたという体験を通して自信になり、そのことによって不安という感情を抱えながらなすべきことをなせるようになるのです。
このように考えながら、強迫性障害(強迫症)とつきあっています。

定型発達の子とわが子を比べてしまう“比べる病”もコントロールできない感情。自分を責めてはいけない

この考え方は、発達障害のある子どもの育児でも参考になります。
パートナーがいない時結婚式に招かれて、幸せな友人を見て素直に喜んであげられない自分を責める。
妊活仲間が妊娠しても、自分の不妊治療がうまくいかないと「おめでとう」と素直に喜べない。
これらも自然な感情です。「こんな風に思ってしまう私はなんて器が狭いんだろう。ダメな人間だ」と自分を責めてはならないと思うのです。

同様に定型発達の子を見ては比べてしまい、「羨ましい」と思う。これも自然な感情、自分ではコントロールはできません。抑えつけてしまい「他の子をうらやむ自分はなんてダメな母親なんだ」と自分を責めないでほしいと思います。
責めれば責めるほど、ますます、自分を追い込んでしまうからです。

強迫性障害(強迫症)での体験を通して、自分の心から湧き上がる感情はコントロールできないことを私は学んでます。自分を責めない……まずそこを前提として、発達障害があるわが子と向き合うことが大切だと思っています。
執筆/立石美津子

(監修:森先生より)
「自分の感情を否定しない」ということは大切ですね。人間誰しも、時にネガティブな考えが頭に浮かぶことはあります。
そんな時に自分の感情に蓋をしてしまうと、後々になって感情が爆発したり、うつ病や心身症などの問題となってしまうことがあります。
また、つらい状況であることが周囲からもわかりにくく、周囲から手を差し伸べることが難しくなってしまいます。
不安、恐怖、嫉妬などなど……ネガティブな感情も、自分自身の心を構成する要素のひとつです。
立石さんのように、ネガティブな感情も含めて受け入れて、感情とうまく付き合っていく方法を探していけるといいですね。
前の記事はこちら
https://h-navi.jp/column/article/35029919
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。


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