お年頃のスバルの気持ち

スバルは特別支援学級の中では先生に「ぼくはこれが苦手なのでこの便利グッズを使っていいですか」と聞いたり、クラスメイトに「一人だとできないから手伝って」と言い、工夫したり人や道具を頼りながらゴールを目指すことができます。しかし交流学級など特別支援学級の外に出ると「みんなと同じでいないといけない」という気持ちが強く出てしまい、人を頼ることができません。

さらに高学年になると、お年頃なのか「スバルくんは不器用だから、これが苦手だからできない」と人に思われるより、たとえ注意されたとしても「真面目に取り組んでないからできない」と思われるほうが良いと言う思いが出てきました。

以前、交流学級でのダンス練習でスバルに対して「真面目に踊ってよ」と怒っていた子が、スバルの意志ではどうにもできないほどの不器用さを察し優しく教えてくれるようになったことがありました。私や先生は「よかった」と思ったのですが、スバルは「特別に優しくしてあげないといけない子になったみたいでつらい。みんなと同じように怒られているほうが良かった」と言いました。

親としては「優しくしてくれたほうがいいじゃん!」と思うのですが、10歳の頃の私なら……と考えるとスバルの気持ちも少し分かるのです。先生から委員長にこっそり事情を伝えてもらうこともできますが、スバルがそれを望んでいないので、それは最終手段にして急ピッチでリボン結びのマスターを目指すことにしました。

リボン結びの練習からさらに数か月後……

練習を重ね、ビニール紐でノートサイズのものを十字に縛ってからのリボン結びは、少し緩いものの8割成功するようになりました。
しかしダンボールサイズになるとなかなか成功しません。一部私が手伝うとできるようになりましたが、全部一人で完成させるのは難しそうでした。

私は「諦めたわけじゃないよ?諦めたわけじゃないけど、友だちに『手伝って』って言ったほうが早くない?」とスバルに言いましたが、スバルは渋い顔をして「だってみんな1人でできるから……」と言いました。

何か月も練習してきて思ったのですが、複数枚のダンボールを十字に縛ってリボン結びしてリサイクルボックスまで運んでも崩れないように仕上げることって一般的に難易度が高いです。もちろん1人でできる子もいると思いますが、発達性協調運動症(DCD)の有無は関係なくスバル以外の全員が1人で完成させているとは思えない難しさだと思いました。

それを説明し「一度周りの人たちを観察してみて。『ちょっとここ押さえて』とか『運ぶの手伝って』とか協力しながらやってないかな」と伝えました。スバルは半信半疑でしたが「見てみる」と言ってくれました。私も実際の現場は見たことがないので想像にすぎませんが「そうであってくれ」と祈りました。

次の委員会があった日、帰宅したスバルの報告は

次の委員会があった日、帰宅したスバルが玄関を開けて一番最初に「協力しながらダンボールを結んでいる人たくさんいた」と報告してくれました。どうやら今までは教室の隅でみんなに背を向けて、できない自分を隠すのにいっぱいいっぱいだったので周りが見えていなかったようです。

そのまましばらくキョロキョロしていると隣にいた子に「ちょっとこっち引っ張るの手伝って」と声をかけられました。それから2人で話し合って2人分のダンボールを一緒にまとめて、一緒に結んで、一緒に運びました。そんな話を私に報告しながらスバルは「ダンボールをまとめるのは、ぼくじゃなくても難しいんだな……」とひとりごとのように呟いていました。
友だちと話し合って2人分のダンボールを一緒にまとめて、一緒に結んで、一緒に運んだスバル
友だちと話し合って2人分のダンボールを一緒にまとめて、一緒に結んで、一緒に運んだスバル
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発達性協調運動症(DCD)があるスバルは人よりもかなり不器用で、1人でできないことがたくさんあります。特別支援学級の外での活動の中で「自分だけができない」というのは、今のスバルにとってつらく恥ずかしいことです。「手伝って」と声をかけることはスバルにとっては「ぼくはこれができません」と告白しているような気持ちになるのだと思います。

今回「手伝って」と言われるほうを経験したスバルは「頼られるのもうれしいな」「ぼくにも手伝えることあるもんな」「友だちに手伝ってもらうのは恥ずかしいことじゃないな」と反芻するように思い出していました。

スバルの気持ちを全て塗り替えることは無理だと思いますが、教室の隅で一人ぼっちでいっぱいいっぱいになった時にはこの事を思い出して、少しだけカジュアルな気持ちで「手伝って」と言えたら良いなと思います。
執筆/星あかり

(監修:室伏先生より)
スバルさんの運動面でのお困りごとや、お友達と協力し合うことを学ばれた素敵な体験を共有くださりありがとうございます。発達性協調運動症(DCD)は、年齢相応の運動の調整が難しく、日常生活に支障をきたす状態を指します。協調運動とは、異なる身体の部位を連携させて動かす運動のことです。例えば、はさみを使う時には、目ではさみの動きを追いながら、手ではさみを動かして切り、逆手の手で紙を保持することが必要です。キャッチボールでは、ボールを目で追いながら、適切なタイミングで手や腕、体幹、脚を動かしてキャッチする必要があります。このように、複数の動きを同時に調整することが求められる運動を協調運動と呼びます。

具体的には、キャッチボールや縄跳びの苦手さ、はさみや箸を思い通りに使えない、字を書くのが難しい、など全身を使う粗大運動や手先を使う巧緻運動における困難さ、日常生活に影響を与える場合に診断されます。身体のバランスをとることにおいても苦手さを抱える方が多いです。支援としては、療育で理学療法や作業療法を行ったり、あかりさんがご紹介くださったように、段階的にレベルアップしていく練習(まずは紐の色を変えたり、結びやすい素材でリボン結びを練習する)、支援グッズ・便利グッズの活用(姿勢が崩れやすい場合には椅子の滑り止めを使う、鉛筆持ちのサポーターを使うなど)などがあります。

日々の経験や練習によって、少しずつできることは増えていきますし、上達していきますが、同学年のお子さんと比較してしまうとできないこと・苦手さがあるため、学年があがってくると自己肯定感の低下に繋がることもありますので、練習をがむしゃらに頑張らせるのではなく、適切なサポートやグッズの活用、精神的な支援も重要となります。
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https://h-navi.jp/column/article/35030470
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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