大人のチック症とは?症状とストレスとの関連性、受診先や治療法、生活上の工夫を紹介!
チック症とは瞬きや咳払い、声などが、本人の意思に関係なく突然、繰り返し出てしまう症状です。小児~青年期に現れ成人するまでに自然に消えることも多いのですが、大人になっても症状が持続したり再発したりすることも。単なる癖との区別がつきにくいため、周囲に誤解を受けることもあるようです。当コラムでは症状の解説と受診ガイドに加え、症状理解と暮らしのコツを考えてみました。

大人のチック症とは?
チック症の特徴・症状は?
ただ、大人になってもチックが続いたり、治まっていた症状が環境や体調の変化をきっかけに再発したりするケースもあるそうです。
かつてチック症は、家族関係の不調和などをきっかけとした精神疾患とされてきましたが、近年になって脳と神経の発達のアンバランスさが引き起こす症状であり、発達障害の一群と分類されることも増えてきました。
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4260019074チックは, 突発的, 急速, 繰り返される不規則な運動もしくは発声(例:瞬目, 咳払い)である.
(DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 日本精神神経学会 医学書院 p239より)
共通する特徴は、日常風景になじまない動作や声が、本人の意思では止め難く出てしまう、ということです。

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大人になってからもチック症は発症する?
大人でチック症が出た場合は、小児期に未診断だったものの継続・重症化、あるいは再発である場合がほとんどだといわれています。大人になってから初めて症状が出た場合、チック症ではなく以下のような別の病気やその後遺症、薬の副作用の可能性があります。
・ハンチントン病やウイルス脳炎などの後遺症による脳の中枢神経障害
・コカインなどの薬物使用による副作用
・てんかん、ジストニアなど、別の脳神経疾患

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チック症の原因は?大人でチックが出やすくなる誘因は?
原因1: 神経伝達物質の代謝や分泌が影響している
脳から分泌されるドーパミンという神経伝達物質の働きを抑える薬を服薬すると、症状が改善することが臨床医学的に証明されています。このことから、チック症はドーパミンを代表とする神経伝達物質の代謝と、代謝に反応した神経回路の活動過剰が原因ではないかという仮説が立てられ、研究が進められています。
チックを起こしやすい体質には遺伝が関わっているとも考えられていますが、チックは子どもの10人に1,2人に症状が出るという事実から、体質自体は特に珍しいものではない、といえるようです。
チックが出た子どもの95%は、成長に伴いチックが目立たなくなるそうです。言い換えれば、第二次性徴期を過ぎると症状が落ち着くということになります。その一方で、臨床で月経前緊張症がチックの再発や悪化に関係したとみられる症例や、慢性的な頭痛、腹痛、長びく睡眠不足がチックの増減に影響したと推測される症例も確認されているそうです。
誘因2:環境の変化がきっかけで症状の出方が変わる
チックは精神的ストレスで症状が変わることから、環境要因が関与していることが指摘されています。具体例をあげると、親しい人との離別や転職、昇進などのプレッシャーをきっかけにしてチックが出て、環境に慣れるにつれて症状が減っていく、というようなケースです。
誘因3:性格的にまじめで、繊細、誠実な人に出やすい
環境要因と重複しますが、性格とストレス感受性は関係が深いため、繊細な人ほどプレッシャーを強く感じることが多く、チックを誘発しやすいという臨床心理的な推論があるそうです。
大人のチック症の困り事って?
・自分の意思では止められない/止めにくい
・周囲に障害だと理解してもらえない
・場合によっては誤解されたり悪意をもたれてしまう
・苦しいのに援助の求め方がわからない
これまで述べてきたとおり、チック症は学校や仕事を休むほどの症状にならないことも多く、癖と見分けにくいため「障害」と認知されにくいのも特徴です。また、「発達障害」や「精神障害」に対する社会の誤解と偏見から、当事者や周囲の人々もチック症の理解や受容が困難になりやすいという面があります。
つまり、チック症当事者のいちばんの困難は、「見えない障害」であるがゆえに誤解され、社会から排除される恐怖を感じること、と言えるのではないでしょうか?そして大人にとっては、社会から排除されることは生活困窮に直結しやすいため、その恐怖はさらに増すと推測されます。
チック症のいちばん効果的な対処法は、前述の通りストレス回避とそのための環境調整です。しかし、大人は自活のために仕事上のストレスを慢性的に抱えています。それはチック症当事者も同様です。つまり、チック症の大人はストレス回避がしにくく、そのため症状が長引きやすく、それが当事者の困難をさらに助長するという悪循環になっているのです。言い換えれば大人のチック症の困難は社会が生んでいるともいえるわけです。
実際に、チック症とその重症例であるトゥレット症候群で悩む人たちは、長い間、情報と治療法の少なさ、周囲の誤解と偏見に苦しんできたそうです。しかしこの10年来、障害の研究と理解は徐々に進み、当事者や支援者による訴えも実を結びつつあります。今ではNPO法人が運営する当事者支援協会も発足し、自助グループの活動も各地域に広がってきています。
大人のチック症、医療機関で受診したほうがいい?
大人のチック症、何科を受診すれば良いの?
大人のチック症、どんな治療をするの?
軽度の場合:身体や心理的なストレスを減らす
本人に対してはまず、ストレスを減らすための環境調整の工夫が提案されます。具体的には医師や臨床心理士による本人へのカウンセリング、箱庭療法・認知療法・行動療法などの心理療法です。本人だけでなく家族やパートナーへの症状理解を促すガイダンスも治療の一環になることもあります。
重度の場合:服薬や認知行動療法の指導を受ける
環境調整だけではつらさが解決しない場合は薬物療法が有効です。症状が長期・慢性化していて頻繁だったり激しかったりする場合には、ドーパミンに作用する抗精神病薬が処方されることが多いそうです。これらの薬はふらつくなどの副作用が出ることもありますが、チックが出る回数が減ったり、動きや声が小さく目立ちにくくなったりすることが確認されているそうです。薬物療法の他に、チックをコントロールしやすくする認知行動療法も最近では注目されています。
チック症がある大人の方の、暮らしの工夫は?
ただ、チック症はもともと自然経過のなかで軽減していくことも多く、環境調整が効果的な治療なので、本人がリラックスできる生活習慣を身につけておくことに一定の効果はあると思われます。そこで、以下に3つの生活上の工夫を提案します。
周囲に理解者を増やす
しかし、現実には周囲の理解は得にくい、チック症が出ていると伝えること自体に羞恥心や恐怖心があるとお悩みの方も、中にはいらっしゃることでしょう。そのような、一人で悩まれている方々には、ぜひお知らせしたい言葉があります。それは「合理的配慮」という言葉です。

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障害者差別解消法では、合理的配慮の対象は“法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない”としており、様々な社会の誤解や偏見により困難がもたらされている人も含むと規定しています。不安や緊張感にさいなまれるチック症当事者には配慮を求める権利があり、配慮は行政や事業者の義務であると法律が定めています。また、当事者を支援するために家族やパートナーが代理で配慮を求めることも認めているのです。
このような法律を持ち出さなくても、人間の多様性を認め互いに合理的な配慮を行うことで社会は円滑に運営できる、社会はそこまで成熟しつつある、という考えは今後も広まっていくことでしょう。チック症においては孤立しないということも広い意味での心理的治療になるといえるので、支援の手を憶することなく利用できるとよいですね。
苦しい時に、物理的に逃げる場所を作っておく
定番リラックス法を決めておく
ヨガなどの軽い運動は「体が心地よい状態」を自発的に作れるので、心身を整える効果があると言われています。リラックスした状態を自分の意思で再現できるようになれば、緊張することは減り、脳神経の反応も安定していくかも知れません。
ご紹介した工夫以外に、最近では「ハビット・リバーサル」と呼ばれる認知行動療法がチック症の治療に有効であると言われています。具体的には、まばたきのチックが出そうな時、あえて指先など一点を凝視し、まばたきをしないように意識するというような行動訓練で、衝動を感じた時にあえて逆の行動をすることでチックを打ち消すという方法です。
大人のチック症、周囲の人にできることは?
1. まずはチック症を理解する
当記事でここまで述べてきたとおり、チック症は脳の機能障害で、脳の神経活動の不安定さが引き起こす症状です。チック症特有の言動の繰り返しに、とまどいやイラ立ちを覚えることもあるでしょうが、故意や悪意でやっているのではないことをぜひ理解してください。
2. 日常生活では「温かい無視」を
「温かい無視」とは、簡単に言うと症状を理解した上で見て見ぬふりをするということです。チックに苦しむ当事者にネガティブな感情をぶつけるのは論外ですが、はれものに触るような扱いも当事者を傷つけることはあります。症状のささいな変化には目をつぶり、チックは当事者の特徴の一つでいつかは消える、消えなくても大したことはない、とおおらかに受け止めることは、じゅうぶんな当事者支援になります。
3. 求められた時には手助けする
大人のチック症はまだ認知度が低いため、周囲の人がなかなか理解できないのと同様に、場合によっては当事者自身も気づいていなかったり、受容できずに苦しんでいたりすることがあります。周囲の人にできることの基本は「温かい無視」なので過度の手助けは考えものですが、チック症であるという自覚や受容ができないまま苦しんでいる場合は、相談に乗るなどの支援をしてもよいかもしれません。
支援の仕方はチック症当事者との関係・距離感に応じて変わりますが、症状を抱えながらも努力し成長しようとする人が、社会に阻まれることなく暮らしていける世の中こそ、誰にとっても暮らしやすい社会であるはずです。チック症のあるなしに関わらず、すべての人がのびのびと暮らせる社会になるとよいですよね。
まとめ
チックは子どもによく見られますが、大人でも症状がある人はいます。学校や会社を休むほどの症状ではなくても、本人が苦しいと感じているのであれば、一度病院へ行き、相談をしてみてください。周囲の人々はチック症の特徴を理解し、当事者の困りごとに寄り添った「温かい無視」を心がけてあげてください。
チック症の根本的な治療法はまだ確立していませんが、研究も日々進められています。チックとのつきあい方を知り、服薬などの治療を受ければ症状は緩和できます。その症状や当事者の暮らしぶりは少しずつ周知され、支援の輪も広がってきています。
社会適応に困難を感じているチック症の方々は、「合理的配慮」という考え方をこの機会にぜひ知ってください。当事者も周囲の人々もチック症の知識と対応を学んで、チックで孤立する人を生まない社会を目指していきましょう。

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