毎日「納得いかない!」ASD息子の小学校時代。不機嫌、思い込み、混乱、パニックで親子で疲弊していた頃を振り返って

ライター:丸山さとこ
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ASDとADHDの息子のコウは中学2年生。小学生の頃は不機嫌なことが多く、しょっちゅう泣いたり怒ったりしていました。当時を思い出しながら「あの頃はねぇ、あらゆることに『納得いかない!』って思ってた」と言うコウのこれまでを振り返ってみました。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

あらゆることに「納得いかない!」と思っていたそうです

今ではおおむね機嫌のいいコウですが……

ニコニコ機嫌のよい現在のコウと、不機嫌が多かった頃のコウを対比させるイラスト。
私が「小学生のころは機嫌が悪い時間が多かったの覚えてる?」と聞くと、コウは「覚えてるよ。あの頃はねぇ、あらゆることに『納得いかない!』って思ってた」と返答。驚きのあまり、「あらゆることに」と復唱する私。
「あの頃はねぇ、あらゆることに『納得いかない!』って思ってた」と語るコウ。
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ASDとADHDの息子のコウは中学2年生。中学生になった今ではおおむね毎日機嫌よく過ごしているのですが、小学生の頃は不機嫌なことが多く、しょっちゅう泣いたり怒ったりイライラしたりしていました。

先日、ふと「小学生の頃は機嫌が悪い時間が多かったの覚えてる?」と聞くと、「覚えてるよ。あの頃はねぇ、あらゆることに『納得いかない!』って思ってた」と言うので笑ってしまいました。

毎日が「納得いかない!」の連続だった小学生時代

コウの言う通り、小学生だった頃のコウはさまざまなことに対して「おかしくない?」「だって〇〇なら□□なのに!?」と言っては『納得いかない!』を爆発させていた覚えがあります。

それだけなら「早めに来た思春期なのかな?」と流せなくもないのですが、コウの場合はそれに加えてパニックもあったために、生活のどこに混乱の種が潜んでいるのか分からない状態でした。

コウが「あらゆることに『納得いかない! 』って思ってた」と言うくらい、些細な日常のできごとが混乱やパニックのきっかけでした。
ランドセルと帽子を手にしたコウは、強い調子で「今日は絶対に学校ある日だよ!」と言い切っている。私は「いやでもプリントに休校日って書いてあるよ」と言い、コウを止めようとしている。
聞き間違いと思い込みの激しさで、止められない……!
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パニックの理由の一つは、ASDとADHDの特性による思い込みの強さや『物事の背景の繋がらなさ』だったのかもしれません。コウが落とした消しゴムを「落ちてるよ」と言っただけで「僕はダメなんだ!!」とパニックになったりしていました(小学生の頃は学校で「ダメだよ」「お前が悪い」と注意をされることが多く、何かを指摘されることと非難されることが結びついてしまったようでした)。

また、思い込みの強さと聞き取りの苦手さから、先生が話した内容を間違えて理解してしまうこともよくありました。
プリントに休校日と書いてある日に登校しようとするのを止めてパニックになった時には、プリントやカレンダーを見せても「先生が今日学校あるって言ってた!」と言い張って大騒ぎになったこともありました。

「納得いかない!」と少しずつ折り合いをつけていったコウ

服が濡れただけでもパニックになっていたコウでしたが……

あるときは、近所の子どもに水風船をぶつけ合う遊びに誘われて服が濡れた瞬間に泣き出してしまったことも。「水着じゃないのに服が濡れる遊びなんておかしい」とコウは泣きながら言っていました。

本人にとっての『納得いかないポイント』にひっかかるたびに、パニックになって青ざめて震えたり泣いて床を叩いたりしていたコウ。そんな息子の対応に追われて、親子でグッタリすることもしばしばでした。
どうして機嫌がよくなったのかコウに質問する私。自分なりの考えを述べるコウ。
中2になり、自分なりの考えを述べられるまでに成長!
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そのような状態からどうして今のような『おおむね機嫌がよい』状態になったのかと中学2年生になったコウにたずねてみました。すると、理由として以下のようなことを話してくれました。

「小学生から今まで一つひとつ『納得いかない』を解消してきたことで、納得いかないこと自体が以前よりも減っているから」
「今は納得いかないことがあっても不機嫌にはならないよ。学校では『面倒だな』と思いながら合わせたり指示に従ったりしてる」


「家ではまだ『納得いかない!』ってなることもあるよ。でもそれは、心のどこかで『お母さんなら説明できるはず』と家にいるときは思っているからだと思う」と言って笑う彼を見ていると、根本には「納得いかない!」が残っている部分もあるのだろうと思います。

「納得いかない!」の数自体は減りつつも、今でも納得いかないときはあるということ。そして、それをそのままストレートには表していないのだということを知って、コウの変化を感じました。

機嫌がよくても悪くても、気にかけておくことの大切さ

小学校5年生の頃から少しずつ周りが見えるようになってきたコウは、「自分の感情表現は周りに比べて激しすぎるのかな?」と気づいて、感情表現の仕方を意識的に調整するようになったのだと言います。コウなりに努力して『納得できなさ』と折り合いをつけたところがあるのだなと思うと、コウのペースでいろいろ考えているのだなぁと改めて感じました。
楽しそうに話すコウと、それを聞きながらコウの意識的な努力に思いを馳せる私。
笑顔でこれまでの努力を語るコウ。
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今日も機嫌がよさそうなコウに「ごきげんだね」と言うと、「僕は大体いつでも機嫌がいいよ」とニコニコしていたコウは、「だから機嫌が悪かったら心配したほうがいいよ」と加えて言いました。「体調が悪いのかなとか、悩みごとがあるのかな?とか?」と聞くと、コウは然りといった様子で「そういうこと」とうなずいていました。

コウにそう言われなかったら、私は「あぁ、コウも思春期だから不機嫌なのかな?」と流してしまっていたかもしれません。そう思うと、少しドキリとした気持ちになりました。機嫌がよくても悪くても、「最近どうかな?」と、つかず離れずコウの様子を気にかけておくことを忘れないようにしたいです。
「僕は大体いつでも機嫌がいいよ。だから機嫌が悪かったら心配した方がいいよ」というコウの言葉に「思春期だから不機嫌なのかな?と流してはいけないな」と思い、ドキリとしつつ気を引き締める私。
機嫌が悪いときは、心配のサイン!
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執筆/丸山さとこ

(監修:井上先生)
コウ君の「納得ができない」が、家と学校で異なっていたのは「お母さんなら分かってくれるはず」という期待の高さゆえ、ではないかと思いました。お母さんのコウ君の気持ちを引き出す言い方の上手さが決め手になっているようにも思います。

そうした経験があって癇癪やパニックの理由を言葉で表現できるようになったり、人に伝えたりすることで自分の中で折り合いをつけることが可能になっていったのだと思います。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
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