ワーキングメモリと発達障害の特性の関係

ワーキングメモリの低さと発達障害の特性は、その症状に共通点も見られます。

発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)と、その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害です。発達障害があると、不注意で衝動的な行動や、読字や書字の苦手といった症状が見られますが、ワーキングメモリが弱い場合に出る症状に似ています。そのため、何らかの関連があると考える専門家もいます。

次に、ワーキングメモリの低さと発達障害の特性の共通点と、その関連について現在考えられている説をくわしく見てみましょう。

ADHD(注意欠如多動症)とワーキングメモリの関係

ADHD(注意欠如多動症)は不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。

このうち、不注意と衝動性の特性による「注意すべきことの判別が付かない」「忘れ物が多い」「気が散りやすい」などの困りごとは、ワーキングメモリの機能の低さによって、情報を一時的に記憶したり整理することが苦手なことが関連しているのではないかとも考えられています。
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【専門家監修】ADHD(注意欠如多動症)の3つのタイプとは?「不注意」「多動・衝動性」「混合」それぞれの特徴を解説

LD・SLD(限局性学習症)とワーキングメモリの関係

LD・SLD(限局性学習症)は、知的発達の遅れはないが、読むことに困難がある、書くことに困難がある、計算に困難があるなど発達障害のことです。

それぞれの症状に複数の原因が考えられますが、「文字からの情報を記憶できない」「書こうとした文字の記憶ができず、正しく書けない」「頭の中で数字の情報を短期記憶、活用することができない」といった困りごとは、ワーキングメモリの機能の小ささが関係している可能性があります。

このように発達障害がある子どもの特性をワーキングメモリの働きという側面から考え、その仕組みに対する手立てを行うことで、困りごとを軽減するきっかけになるかもしれません。
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LD・SLD(限局性学習症)とは?症状や特徴、診断方法について【専門家監修】

ワーキングメモリの機能を調べる方法

ワーキングメモリの機能を調べる方法は、主に2つあります。

1つは、ワーキングメモリを測定するためのテストを使うこと。もう1つは、ワーキングメモリが検査項目に含まれている知能検査を参考にすることです。
ワーキングメモリのアセスメントを目的にしたテストでは、詳細な測定ができます。詳細な測定によって、どのような類の行動に困りごとが生じやすいのかが分かります。

ワーキングメモリを調べるテスト

ワーキングメモリのアセスメントを目的にしたテストでは、詳細な測定ができます。詳細な測定によって、どのような類の行動に困りごとが生じやすいのかが分かります。

代表的なテストとしては、以下のようなものが開発されています。

■AWMA(Automated Working Memory Assessment)
イギリスのピアソン社が販売しているテストで、ワーキングメモリの問題をスクリーニングするときに使用されます。このテストでは、ワーキングメモリの4つの側面(言語的短期記憶・視空間的短期記憶・言語性ワーキングメモリ・視空間性ワーキングメモリ)の検査ができます。
AWMA(Automated Working Memory Assessment)│Pearson Assessment
https://www.pearsonclinical.ca/en/products/product-master/item-83.html
■HUCRoW
HUCRoWは、広島大学大学院教育学研究科(研究代表者:湯澤正通教授)が開発しているアセスメントツールで、日本の小・中学生用に開発されました。
参考資料:「ワーキングメモリと実行機能の発達」 湯澤 正通, 森口 佑介, 土田 宣明
https://doi.org/10.11201/jjdp.30.173

知能検査・認知検査の利用

専用のアセスメントテスト以外に、検査項目としてワーキングメモリがある知能検査・認知検査も参考にできます。
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発達障害の診断目的で知能検査や発達検査を受けると、ワーキングメモリの苦手さが見つかることもあります。
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記憶方法の活用、長期記憶の活用、ツールの利用で記憶をサポートすることができます。

記憶方法の活用とは、文面だけで覚えるのではなく音読によって音声情報として記憶すること、長期記憶の活用とは、新しい情報を覚える際に、すでに持っている知識との関連付けを行うことです。

ツールの活用とは、絵カードや図表など覚えておくべき情報などをすぐ確認できるよう視覚化しておくことです。他にも、録音や写真を撮るなど機械を使うことで思い出せるようサポートすることもできます。

まとめ

ワーキングメモリは脳の機能の一つで、情報を一時的に記憶・整理することで私たちの判断と行動に広く影響しているともいわれています。この機能に困難があると、指示に従うことが苦手、会話がちぐはぐになる、状況や場面にそぐわない行動を起こしてしまう、といった困りごとが生じ得ます。

本人はどうにもできず困っているにも関わらず、周囲からの理解が得られずに苦しんでしまうこともあります。

ワーキングメモリの機能自体の改善に関しては、現在においても研究段階です。周囲の関わり方や適切な環境づくりによって、子どもの困り感を軽減したり、トレーニングした分野において改善したというケースも報告されています。まず特性を理解する、そして環境調整やツールの活用、会話する際には話す順番を工夫するなど、それぞれの子どもに合わせたサポートをしていきましょう。

参考資料

ワーキングメモリと特別な支援: 一人ひとりの学習のニーズに応える
湯澤 美紀 (著, 編集), 湯澤 正通 (著, 編集), 河村 暁 (著, 編集), 山田 充 (著), 青山 新吾 (著)
北大路書房
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ワーキングメモリと発達障害:教師のための実践ガイド2
T.P.アロウェイ (著), Tracy Packiam Alloway (著, 原名), 湯澤 美紀 (翻訳), 湯澤 正通 (翻訳)
北大路書房
Amazonで詳しく見る
ケース別発達障害のある子へのサポート実例集 幼稚園・保育園編
酒井 幸子 (著), 中野 圭子 (著), 上野 一彦 (監修, 読み手)
ナツメ社
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イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本
田中康雄 (監修)
西東社
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参考文献:葉石、池田、八島、大庭『知的障害者の実行機能と支援実践の課題』│上越教育大学特別支援教育実践研究センター紀要
https://juen.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=7074&item_no=1&page_id=13&block_id=30
参考文献:湯澤正通、斎藤智、河村暁、湯澤美紀、無藤隆『ワーキングメモリ理論と発達障害-環境設定から学習・就業支援へ-』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pamjaep/56/0/56_12/_article/-char/ja/
1日5分! 教室で使えるコグトレ 困っている子どもを支援する認知トレーニング122
宮口 幸治 (著)
東洋館出版社
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