息子が通報された?警察からの連絡。窮地を救った障害者手帳と「メモ」の存在

ライター:立石美津子
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出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=10131509712

現在25歳の息子は知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)で、強迫性障害があります。見た目からは障害があることが分かりにくく、身体は大人なので不審者通報されることもありました。1年ほど前にも見知らぬ人に不審者と思われて通報され、警察署から私の携帯電話に連絡がありました。

でも幸いなことに、療育手帳に挟んだメモに「ASD(自閉スペクトラム症)であること」と「私(母)の連絡先」を書いていたので、警察官はすぐに「不審者ではない」と理解してくれたのです。

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監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。 1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。

“トイレ好き”が招いた騒動

現在25歳の息子は知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)で、強迫性障害があります。息子はトイレに強い関心があり、週末になると街中の公衆トイレを見に行きます。中に入って水流を撮影するのが大好きなのですが、知らない人が息子の行動を見たら、不審に思われることもあると思います。私は息子の趣味を尊重したい気持ちはあるものの、ほかの人の迷惑になったり、トラブルに巻き込まれたりすることが心配で、日頃から「使っている人が誰もいない時に手早く済ませるようにするんだよ」と伝えてはいたのですが……。

ある日、私の携帯に警察署から電話がかかってきました。
「●●君の保護者の方ですか?お子さんが不審者として通報されたのでご連絡しました」と。

事情を聞くと、息子はトイレの前で、なかなか開かないドアにいら立ち、パニックになってしまったとのこと。通りがかった人が不審に思い、警察に通報したのです。

実はそのトイレの中にはホームレスの人がいて長時間出てこなかったのだそうです。息子はその人が出てくるのを20分ほど待っていたそうですが、「まだ?まだ?」とついに待ちきれなくなったとのことでした。
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手帳に挟んだメモに書いていたことで理解された

ここで大きな役割を果たしたのが「療育手帳」と、そこに挟んでいた「メモ」でした。療育手帳とは、知的障害(知的発達症)の人に交付される障害者手帳です。私は、息子の療育手帳に透明なケースをつけているのですが、緊急時のために、ケースと療育手帳の間に次のような情報を記入したメモを挟み込んでいました。

・私(保護者)の携帯電話番号
・障害名(「ASD(自閉スペクトラム症)、知的障害(知的発達症)あり」など)

警察の方が息子のリュックの中を改めた際に、しまっておいた療育手帳に気づき、確認してくださったのです。そのため「息子さんはASD(自閉スペクトラム症)なんですね」と警察にもすぐ理解してもらうことができました。

療育手帳をただ持っているだけで、緊急連絡先や障害の特性を書き添えていなければ、誤解されたままだったかもしれません。障害のある子どもが一人で外出する際には、こうした対策が必要だと痛感した出来事でした。

まとめ

障害者手帳やヘルプマークなど、周囲の人に障害があることを知ってもらうための手段はさまざまありますが、ただ所持しているだけでは、十分とは言えない可能性があります。障害のあるお子さんが外出する際には、これらに「親の連絡先」と「障害名」を明記しておくことで、万が一トラブルに巻き込まれたときに、迅速な理解と保護者への連絡につながるのです。

ただ、ヘルプマークはかばんにつけるなど、誰からでも見える位置にある場合が多いので、ここに住所を書くのをためらう人もいると思います。私も住所が特定されるのが怖いため、ヘルプマークの裏面には緊急連絡先として保護者の携帯番号と障害名だけ書くようにしています。

このような対策をとることで、お子さんが一人で外出する際の不安が少しでも軽減され、将来の自立にもつながっていくのではないかなと思います。私自身の経験からも、ぜひ皆さんのお子さんの手帳などにもメモを添えておくことをおすすめします。
執筆/立石美津子

(監修:鈴木先生より)
以前、お子さんのシャツの首の後ろ側に名前と連絡先の書いた布を貼っていた保護者の方がいました。個人情報丸出しでしたが、仕方なく考えたやり方だったと思います。

本来、誰もがASD(自閉スペクトラム症)の理解をしていれば、このような問題が起きることはありませんが、今の日本においては、まだまだ理解が進んでいない現実があります。手帳のメモがなくても自由に過ごせて、不審者扱いにされない社会の実現が待ち望まれます。そのためには、小中学校の義務教育から、さまざまな病気の理解ができるような教育がなされる必要があるのです。昔と違い、現代では眼鏡をかけていても誰も不思議がることはありません。それと同じように、ASDの人が街中にいることを当たり前と受け止める世の中になるように祈念しております。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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