回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)とほかの障害との関連

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の症状は、ほかのパーソナリティ障害(パーソナリティ症)の症状と重なる部分もあり、下記の障害が併発することもあります。しかし、自分の障害を理解するためにも、また治療をしていくうえでも、併発している障害と回避性パーソナリティ障害(パーソナリティ症)とを区別して認識することが大切です。

以下では、回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)と共通の症状を持つパーソナリティ障害と、各障害との違いについてまとめました。

境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)

対人関係において考え方や感情が不安定になりやすい点は、回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)と境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の双方に共通する特徴です。ただ、境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の人には、自分と他人との境界が分かりにくいため、他人からの影響を受けやすかったり、依存しやすい傾向がみられます。境界性パーソナリティ障害(ボーダーラインパーソナリティ症)の人が強迫的に感じている「自分は見捨てられてしまうのではないか」という不安は、回避性パーソナリティの批判・非難・失敗を恐れる不安とはまた違うものだといえるでしょう。

依存性パーソナリティ障害(依存性パーソナリティ症)

どちらも他人からの批判に対して過敏であること、他人から自分が受け入れられていることの保証を求めることを特徴としています。しかし回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の人は、内に依存心を秘めながらも、その依存性を嫌って自立的であろうとする傾向があります。

シゾイドパーソナリティ障害(シゾイドパーソナリティ症)/統合失調型パーソナリティ障害(統合失調型パーソナリティ症)

どちらも社会的孤立を特徴としていますが、その捉え方に違いがあります。回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の人は他人と関係を持ちたいという思いがあり、孤独感を強く感じているのに対して、シゾイドパーソナリティ障害(シゾイドパーソナリティ症)・統合失調型パーソナリティ障害(統合失調型パーソナリティ症)の人は社会的孤立に満足していたり、むしろそれを好む傾向があります。

猜疑性パーソナリティ障害(猜疑性パーソナリティ症)

他人に秘密を打ち明けることを躊躇するという特徴が共通していますが、回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の人がこれを躊躇するのは、恥ずかしい思いをさせられたり、不適切だということが分かったりすることを恐れるためです。猜疑性パーソナリティ障害(猜疑性パーソナリティ症)の人は、他人と共有する情報が自分に不利に用いられるという恐れのために秘密を他人に打ち明けたがらないという点で異なります。

そのほかの併発しやすい精神疾患

また、同時に診断されることが多い障害としてはほかに、

・抑うつ症群(うつ病など)、双極症及び関連症群(双極症Ⅰ型、双極症Ⅱ型など)
・不安症群(社会不安症、全般性不安症など)

があります。

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の疑いを感じたら

パーソナリティ障害(パーソナリティ症)の診断は、精神科医や専門医にも難しいものです。もしご自身やご家族に回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の疑いを感じた場合は、一人で悩む前にまずは専門機関に相談することをおすすめします。

受診する医療機関は、精神科、精神神経科、心療内科などです。「相談」のつもりであっても、形式は「受診」になるため、できるだけ本人を連れていくようにしましょう。

いきなり病院に行くことに抵抗がある場合には、各市区町村にある保健所の保健センターで相談することもできます。また、各都道府県に設置される精神保健福祉センターでもメンタルヘルスに関する相談事業を行っています。
全国の保健福祉センター一覧|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yakubutsuranyou_taisaku/hoken_fukushi/index.html
また、本人が会社勤めの場合や高校や大学に通っている場合、学校や企業専属のカウンセラーに相談するのもおすすめです。

企業や学校のカウンセラーは、その人が所属している組織の内情にも通じているため、より適切なアドバイスをもらえる可能性が高いでしょう。また、連携している医療機関を紹介してもらえる場合もあります。

回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の治療法

パーソナリティ障害(パーソナリティ症)を確実に根治させる、決定的な治療法はありません。パーソナリティは一人ひとり異なるものであるため、治し方も人それぞれです。

一般的には精神療法と薬物療法が中心になりますが、必要に応じて家族療法や福祉・医療関係施設でのデイケアなどの社会療法も同時に行われます。一人ひとりの治療目的に合わせて、複数の治療を組み合わせます。

一般的には精神療法と薬物療法が中心になりますが、必要に応じて家族療法や福祉・医療関係施設でのデイケアなどの社会療法も同時に行われます。一人ひとりの治療目的に合わせて、複数の治療を組み合わせます。

1.個人精神療法

医師や心理技術者が患者さんの心理面にさまざまな働きかけを行い、患者さんの認知や思考、行動パターンなどの偏りを改善して少しずつ社会に適応できるようにしていく根本的な治療法です。

1週間に1~2回、30分から1時間程度、治療者が患者さんと面接する形で行うのが一般的です。内容に関しては個々の治療者の判断によるところが多く、統一のガイドラインはありません。

この治療法においては、以下の3点を患者さんと周囲の人々が理解する必要があります。

・効果が表れるのに時間がかかる治療法であり、数年におよぶこともある
・誰にでも効果が期待できるものではない
・治療者との相性や信頼関係が効果を左右する

個人精神療法は、精神科医が行うもっとも基本的な治療法の1つではありますが、「絶対的な治療法」であるという過度の期待を持つと、効果を感じられないと治療を投げ出してしまったり、治療者を疑ったりと逆に治療が困難になってしまうことがあります。

個人精神療法は、その場しのぎではなく問題を根本から改善しようとするものです。時間はかかりますが、本人が治療の意思を持って、治療者と信頼関係をしっかり結んで治療を継続していくことが必要です。

また、回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の基盤となる気質を「森田神経質」と呼ぶことがあり、その治療法として「森田療法」があります。

森田神経質のある人は、不安や恐怖を「あってはならないもの」として排除しようとするあまり、かえってそれにとらわれてしまうという悪循環に陥っています。この悪循環を断つために、不安や恐怖を「あるがまま」受け入れる姿勢を身につけようとするのが森田療法です。
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森田療法とは?不安障害との関連や具体的な治療法(入院・通院)「あるがまま」という考え方について解説!

2.集団精神療法

集団精神療法とは、同じパーソナリティ障害を持つ人が複数人集まり、グループで話し合いをしたり、共同で作業をしたりする活動を通して、社会にうまく適応できない原因を見つけて解決する方法です。

同じ障害を持っている人とのコミュニケーションは、障害による問題に気付くきっかけになります。それを自分にあてはめて考えられるようになると、徐々に認知のゆがみやクセを修正していくことにつながります。

また、集団精神療法での仲間体験は、患者さん自身の自己肯定感を持たせることにつながり、他人とコミュニケーションの取り方を練習する機会にもなります。

3.家族療法

家族療法は、患者さん本人だけでなく、家族にも治療を行うのが特徴です。実は、パーソナリティ障害をもつ人は、家族にも認知や思考のパターンに偏りがあることが多いのです。この偏りのために、家族の努力が患者さんの症状を逆に悪化させていることもあります。

具体的には、治療者が家族全員と面接を行ったり、患者さんの付き添いで来院した際に話を聞いたりします。患者さんに思いをうまく伝える言葉のかけ方や、患者さんの気持ちを安定させるための振舞い方など、適切な対応法を治療者から指導します。

なお家族療法は、患者さんが未成年のときに行われるのが一般的です。患者さんがある程度の年齢に達している場合は、患者さん自身が家族から自立する方向で治療が行われる傾向にあります。

4.薬物療法

薬物療法は、強い不安や緊張、抑うつなど、程度の強い精神症状を一時的に和らげる目的で使われます。しかし、あくまで対症療法にすぎず、障害を根本から治すことはできません。治療の中心は精神療法で、薬物療法はその潤滑油としての役割を果たします。
使われることのある薬の種類と働きは以下の通りです。

■抗精神病薬
脳に働きかけて、興奮を静めたり、心を安定させます。

■抗うつ薬
気持ちの落ち込みをやわらげ、心を楽にします。

■抗不安薬
不安感や緊張感をやわらげます。頓服として不安な場面・場所で服用することもあります。

■そのほか
睡眠のリズムが乱れているときは睡眠薬を、そのほか衝動を抑えるために気分安定薬が使われることもあります。

ここでも、「薬を飲むことで、障害がすぐに良くなる」という過度な期待を寄せないことが大切です。また、服薬の決まりをきちんと守り、量や種類に不安があるときはきちんと主治医に相談しましょう。

5.認知行動療法

患者さんの認知のゆがみを是正するための治療法です。患者さんに自分を客観的に観察してもらい、認知のゆがみがいつどのようにして起こったのかを記録し、自覚してもらいます。

そのうえで、場面の振り返りやロールプレイングなどを通して、認知の仕方、行動の取り方を実践的に学びます。回避性パーソナリティ障害(回避性パーソナリティ症)の人が悩んでいるさまざまなことが、いかに主観的な心配にすぎないかを本人に気付かせて、問題の解決を目指します。

近年は簡易型の認知行動療法の研究・開発が進んでいます。具体的には、当事者や仲間がお互いに支え合うサポートグループ・プログラム、短時間で相談に乗る相談センターや電話相談、コンピュータ支援型認知行動療法が実際の現場で活用されています。
次ページ「まとめ」

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