ASD(自閉スペクトラム症)かもしれないと思ったら、どこに相談したらいい?

本人や周囲の負担を軽減するためには、適切なサポートを受けることが重要です。ASD(自閉スペクトラム症)の特性により日常生活に何らかの困りごとがある場合、障害への理解がない状態では解決が難しく、自分を責めてしまうなど、状況が悪化してしまう場合もあります。

「いきなり医療機関を受診するのは抵抗がある」という方は、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。できる限り早期に相談し、ASD(自閉スペクトラム症)に対して正しい知識を得られるとよいでしょう。
専門機関への相談を事前に行うことで、サポートを受けることができ、たとえトラブルがあったとしても、上手く乗り越えていけるフォロー体制を家族以外の専門家も交えてつくっていくことができます。家族で試行錯誤をして対処法を見つけていくよりも、専門機関に相談しアドバイスをもらう方が、周囲の負担も軽減できるかもしれません。

身近な専門機関の相談窓口の例
【子どもの場合】
・保健センター
・子育て支援センター
・児童発達支援事業所
・発達障害者支援センター など

【大人の場合】
・発達障害者支援センター
・障害者就業・生活支援センター
・相談支援事業所 など

上記のような相談センターでは、ASD(自閉スペクトラム症)の可能性があり診断を希望する場合、医療機関を紹介してもらえることもあります。また、自宅の近くに相談センターがない場合には、電話にて相談に応じてもらえます。発達障害専門の医療機関は他の障害、疾患に比べると少ないですが、発達障害者総合支援法などの施行によって年々増加しています。

子どもの場合は、専門外来のある小児科、脳神経小児科、児童精神科などで。18歳以上の場合は精神科や心療内科などで、診断を受けることができます。また、保健センターなどでは知能検査や適応能力の検査を受けられる場合もあります。
下記のサイトでは全国の発達障害専門の小児科がリストアップされています。受診の際の参考にしてみてください。
日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」
https://service.kktcs.co.jp/smms2/c/jscn/ws/jscn/List.htm?t=https://www.childneuro.jp/themes/childneuro/relation/licenselist_dd.html
大人の自閉症スペクトラムについて|LITALICO仕事ナビ
https://snabi.jp/article/34
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発達検査とは?発達障害の診断は出る?検査の種類、費用など【専門家監修】

ASD(自閉スペクトラム症)はどうやって診断されるの?

ASD(自閉スペクトラム症)の診断・検査方法は、本人の年齢や状態によって異なります。問診や検査の結果を受けて総合的にASD(自閉スペクトラム症)の診断が行われます。

臨床的診断

医療機関を受診した際の臨床的な診断として、行動観察と生育歴について聞き取りを行います。

■行動観察
子どもが遊んでいる様子などを観察します。また、保護者の方へのインタビューも行われます。

■生育歴
産まれてから今までの社会性や対人コミュニケーション、言葉の発達、幼稚園・保育園での様子や1歳半健診・3歳児健診での様子などをヒアリングします。知的障害の併存の可能性、発達の特性などを見立てていきます。

専門的診断

ASD(自閉スペクトラム症)について、より専門的な診断を行う場合には以下の検査が用いられることがあります。

■ADOS(エイドス)
行動観察と面接を行い、ASD(自閉スペクトラム症)の評価を行います。発話のない乳幼児から成人の方まで、幅広く対応しています。

■ADI-R
対象者の行動の系統や詳細な特徴を捉える検査です。精神年齢が2歳0ヶ月以上であれば、幼児から成人まで、幅広い年代に対応しています。社会性、対人コミュニケーションや限定的な行動・興味・反復運動などに焦点を当てて構成されています。

■PARS-TR
ASD(自閉スペクトラム症)の発達・行動症状について主養育者に面接し、その存否と程度を評定する検査です。対人、コミュニケーション、こだわり、常同行動、困難性、過敏性の評価項目があり、全57項目から構成されています。

合併する症状の診断や発達アセスメント

ASD(自閉スペクトラム症)には知的障害(知的発達症)、てんかん、感覚過敏、鈍麻などの合併症を伴う場合があります。合併する障害があるかをアセスメントする場合、以下の検査が用いられることが多いです。

■知能検査
知能検査は心理検査のひとつであり、精神年齢、IQ(知能指数)、知能偏差値などによって測定されます。最近では、ウェクスラー式知能検査、田中ビネー知能検査、K-ABC知能検査などが使用されることが多いです。

■脳波検査
ASD(自閉スペクトラム症)はてんかんを伴っている場合があるため、脳波の検査を行ったり、CTやMRIといった脳の画像診断を行う場合もあります。ASD(自閉スペクトラム症)がある子どもは狭い空間に入るとパニックになることもあるので、検査をする際には注意が必要です。

■感覚プロファイル
ASD(自閉スペクトラム症)をはじめ、発達障害のある人たちの感覚特性を客観的に把握するためによく使われている尺度です。質問票は保護者と本人が記入し、聴覚、視覚、触覚、口腔感覚など、感覚に関する125項目から構成されています。

■VinelandⅡ(バインランド:社会生活能力検査)
0歳から92歳の幅広い年齢帯で、同年齢の適応行動をもとに、対象者の適応行動の水準を客観的に数値化する検査です。対象者にどんな特性があるのかを評価します。教育や福祉分野の個別支援計画の立案はVinelandの評価に基づいて行われることがあります。

また、精神疾患の併存の可能性がある場合には精神疾患に関する検査を行う場合があります。

「自閉症スペクトラム指数(AQ)」は診断に関係するの?

「自閉症スペクトラム指数(以下AQ)」という評価尺度があります。AQは、直接診断に活用するというよりは、ASD(自閉スペクトラム症)の可能性があるかどうかを大まかに調べるスクリーニングとして用いられることが多いです。AQは50項目の設問から構成されており、本人が回答します。数値が高いほどASD(自閉スペクトラム症)の傾向が強いといわれています。

AQの数値はあくまで傾向を示すものであり、ASD(自閉スペクトラム症)の有無を断定できるわけではありません。医学的な診断が必要な場合には。専門機関へ相談し、医療機関を受診しましょう。

ASD(自閉スペクトラム症)は治せるの?

ASD(自閉スペクトラム症)の根本的な治療法は確立していません。しかし、早期からの療育や環境調整などを行い、本人や家族が苦手なことへの対応方法や回避方法を身に付けられるようになることで、症状を緩和したり困りごとを軽減したりすることができるようになります。
※一定年齢の間に症状が緩和することで、診断基準を満たさなくなる例も報告されていますが、自閉症状の比較的軽度な子どもに限られています。

また、てんかんには抗てんかん薬が、その他それぞれの心身の状態に合わせ、症状を緩和させる薬が処方されることがあります。これはASD(自閉スペクトラム症)そのものを治すための薬ではなく、あくまで症状や合併症を緩和するためのものです。
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ASD(自閉スペクトラム症)の療育方法

ASD(自閉スペクトラム症)の療育には、子どもの年齢や障害の程度によって複数の方法があります。ここではそのいくつかを紹介します。

■ABA(エービーエー、Applied Behavior Analysis/応用行動分析)
人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、問題解決に応用していく理論と実践の体系です。ASD(自閉スペクトラム症)に対する療育だけでなく他の障害や教育、福祉、医療、スポーツ分野でも利用されています。

■TEACCH(ティーチ、Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Children)
米国ノースカロライナ州で生まれた、ASD(自閉スペクトラム症)の当事者とその家族を生涯支援する総合的なプログラムです。

■PECS(ペックス、Picture Exchange Communication System)
絵カードを使ったコミュニケーション援助プログラムです。上記のABAの原理に基づいて作成されています。

■SST(エスエスティー、ソーシャルスキルトレーニング)
対人関係をうまく行うための社会生活技能を身につけたり、障害の特性を自分で理解し自己管理をするためのトレーニングの総称です。

■認知行動療法
うつや不安症が併存する場合、それに対して、認知行動療法が適用される場合があります。
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ASD(自閉スペクトラム症)がある子どもをもつ家族の支援プログラム

ASD(自閉スペクトラム症)がある子どもの保護者のためのプログラムもいくつかあります。

■ペアレントトレーニング
保護者の方々が子どもとのより良いかかわり方を学びながら、日常の子育ての困りごとを解消し、楽しく子育てができるよう支援する、保護者向けのプログラムです。

■ピア・カウンセリング
似た立場の親同士の横の関係をつくり、対等な立場から意見や情報を交換しあう場です。ペアレントトレーニングの一部に設けられている場合が多いです。

■メンタリング
「ペアレント・メンター」と呼ばれる発達障害がある子どもの子育て経験がある方が先輩として、初めて発達障害と向き合う保護者の相談に応えています。
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ペアレントトレーニング(ペアトレ)とは?種類や効果など/専門家監修

ASD(自閉スペクトラム症)や合併症の症状の緩和を目的とした薬物療法

薬物療法は、ASD(自閉スペクトラム症)や合併症の症状を緩和するために用いられることがあります。医師の指示のもと用法や用量は必ず守り、薬に頼り切って多用するのは避けましょう。薬の服用によりASD(自閉スペクトラム症)や合併症の症状が緩和されているときには療育や教育の効果も上がりやすくなるとも言われています。

思春期以降に必要な支援・治療方法

学校や職場などでの困りごとが目立ちやすくなる思春期以降は、ソーシャルスキルトレーニング、障害の自己理解に基づく環境調整などにより、症状を緩和したり困りごとを軽減したりすることができるようになります。
また、思春期以降は、うつや不安障害などの併存が多くみられる傾向があります。このような症状には、認知行動療法や薬物療法の併用が効果的であるといわれています。
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