外の世界で、兄とは別の人生を送っていること、自由に行動できることへの罪悪感

私の中にある兄への「申し訳ない」という気もち
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また、私にはこのような感情もありました。

5年前に母が倒れたときに、危険な状態だと知り、私は現在の家族(主人と子どもたち)と一緒に実家のある大阪へ向かいました。2週間ほど滞在し、毎日出来る限り付き添いましたし、意識のあるうちに子どもたち(孫)に会わせることもできました。

ですが、重度の自閉スペクトラム症と知的障害のある兄は自分から母に会いに行くことはできません。母の命をつなぐ処置が施されている病室(ICU)に、多動の強い兄を連れていくことはできないと思いましたし、母方の親戚も同じ考えだっただろうと思います。

私はこういった「私(きょうだい)は外の世界で、兄とは別の人生を送っている」「私は重要な場面で、自由に行動ができる」という事実を考えると、兄に対して申し訳なさに似た気もちがありました。

兄はそういった状況を理解しているわけではありませんし、望んでいるわけではありません。「申し訳ない」と罪悪感を持つのも私の気もち次第ではあるのですが…。

複雑な気もちを抱えたまま面会。笑顔の兄を見てすっかり気もちが楽に

WEB面会での兄の様子
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昨年の11月に、いよいよ兄と会う日がやってきました。私は自宅のリビングで、兄は施設の事務所から、画面を通して面会しました。

始めに兄のケース担当の方と話をして、5分ほどして兄がニコニコしながら事務所に入って来るのが見えました。

私は「Yくん(兄の名前)!」と声をかけました。

最初は目があったのですが、スルーされました。どうやら事務所は普段入ることができない場所のようで、兄は目をキラキラと輝かせながら事務所にあるものを手にとっては戻し、手にとっては戻しを繰り返していました。

その様子を見て、今まで私にあった不安な気もちが消えました。多動の強い兄の行動や表情は、一緒に住んでいたときと同じだったのです。

「Yくん、この人誰?」と私自身を指さして聞いてみました。すると、私の方を見てすぐ、「カズちゃん!」とニコニコしながら答えてくれました。そして、また先ほどと同じように周りを気にしていました。

妹の私を覚えているのもうれしかったですが、なにより、妹よりもまずほかのことに目を向けて楽しそうにしている兄を見て、安心しました。
家族(私)を気にしている様子があるのなら、それは「母が来なくなって今も寂しい思いをしている」ともとれるのではないかと思ったのです。
兄の様子を話すケース担当の方
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そのあと、兄のケース担当の方から、最近の兄の様子や生活について詳しく聞くことができました。その話から兄にとっての「自分らしい生活」が送れていると感じましたし、担当の方にあたたかく見守っていただけていると感じました。

面会の時間は1時間ほどだったのですが、終わるころにはすっかり私の心は軽くなりました。

「Yくん、がんばってね。また会いに行くからね」と伝えると、兄は「うん、うん」とうなづきました(言葉は理解せずともあいづちをうってくれました)。
兄と私
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ここ数年、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入居している障害のある人の家族は面会が思うようにできないという話を聞きます。

そういった中でWEB面会が今回できたのは、コロナ禍であることが要因の1つかも知れませんが、私のように実家から離れて生活をしているきょうだい、家族にとっては、とても貴重なよい経験でした。

現在は2〜3ヶ月に一度施設に電話をして、兄の様子を聞いたり、兄が好きなお菓子を送るようにしています。今はまだそういったことしかできませんが、10年後にはまた違った関わり方ができるようになると思います。

はじめに提案してくださった施設長には心から感謝します。

執筆/スガカズ
(監修:三木先生より)
「親なきあと」は本当に難しい問題ですよね。どういう方法や状態がベストなのかは、その人によっても違ってくると思います。そして、相当な悩みと葛藤を過ぎたあとでないと、「これでいいのかな」と思えないこともよくあります。お兄さんのコンディションや反応がどうであったとしても、そのとき、そのときを過ごしていくことで、お互いに安心できる状態になっていくのかもしれませんね。
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