カナー症候群とは?原因・症状、自閉スペクトラム症(ASD)との違いは?【専門家解説】
カナー症候群は、1943年にアメリカの精神科医レオ・カナーが提唱した、主に知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)を指して使われることがある名称です。現在では、自閉的特徴を持つ疾患はASD(自閉スペクトラム症)という診断名に統一されています。本記事では「カナー症候群(カナータイプ・カナー型自閉症)」と呼ばれる状態の特徴や診断、知的障害を伴わない自閉症との違いなどを解説します。
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カナー症候群とは?
ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性が幼少期から見られ、日常生活に困難を生じる発達障害の一つです。
自閉症の概念は、1943年にアメリカの児童精神科医レオ・カナーによって最初に報告されました。それ以降、「自閉症」はカナーの提唱した自閉症を指す時代が最近まで続きました。
その後、イギリスの精神科医であるローナ・ウィングが発表した論文をきっかけに、言語能力が高く知的障害(知的発達症)を伴わない「アスペルガー症候群」の概念が広まりました。
そして、「アスペルガー症候群」と区別するために、カナーが提唱した自閉症を「カナー症候群」「古典的自閉症」などと呼び分けるようになりました。「カナータイプ」や「カナー型」なども同様に、知的障害を伴う場合を指して使われることがあります。
2013年のアメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』の発表以降は、知的発達や言語能力などで診断名を分けず、自閉スペクトラム症(ASD;Autism Spectrum Disorder)としてまとめて表現するようになりました。
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アスペルガー症候群や高機能自閉症とカナー症候群との違いは?
2013年に発行されたアメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』において、アスペルガー症候群や高機能自閉症などの自閉的特徴を持つ疾患は「ASD(自閉スペクトラム症)」に統合されています。
アスペルガー症候群は、現在は医学的な診断名ではありませんが、かつての診断基準である『DSM-Ⅳ』では、広汎性発達障害の下位項目として位置づけられ、知的発達や言語発達の遅れがないことが基準になっていました。
アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないものである
出典:学習障害(LD)、注意欠陥/多動性障害(ADHD)及び高機能自閉症について|文部科学省ホームページ
文部科学省の定義では、主に自閉的特徴がありつつ知的発達の遅れを伴わない状態と記載されています。
高機能自閉症とは、3歳位までに現れ、1他人との社会的関係の形成の困難さ、2言葉の発達の遅れ、3興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害である自閉症のうち、知的発達の遅れを伴わないものをいう。
出典:参考3 定義と判断基準(試案)等|文部科学省ホームページ
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カナー症候群の症状・原因は?
カナー症候群の症状
ASD(自閉スペクトラム症)は、「対人関係や社会的コミュニケーションの困難」と「特定のものや行動における反復性やこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻さ」などの特性が幼少期から見られ、日常生活に困難を生じる発達障害の一つです。幼少期に気づかれることが多いといわれていますが、症状のあらわれ方には個人差があるため就学期以降や成人期になってから社会生活において困難さを感じ、診断を受ける場合もあります。
カナー症候群は、ASD(自閉スペクトラム症)の中でも知的障害(知的発達症)を伴う状態を指して使われることがあります。
コミュニケーションの発達面では、エコラリア(オウム返し)があったり、要求以外のことばの発達の遅れや抽象的な質問に対する応答困難、会話の困難などがあったりします。
医学的な診断としての知的障害(知的発達症)は、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習などにおいて必要となる知的機能と、発達および文化的な水準を満たす日常生活に関する社会的な適応機能における問題が見られるとされています。
発達期に発症し、継続した支援がない場合には、家庭・社会・職場などのさまざまな環境において、社会参加や日中活動が妨げられることがあります。知的障害(知的発達症)の程度は、軽度・中等度・重度・最重度の4段階に分けられます。
◇知的障害(知的発達症)の症状や特徴の例
・軽度の場合:幼児期は気づかれにくく、学齢期に入ってから勉強面や、時間・金銭などなどの生活管理において難しさが生じたり、言語の発達がゆっくりだったりします。
・中等度の場合:1〜3歳など幼児期初期から言葉の遅れが見られ、成人後も身辺自立は部分的にはできますが、全てをこなすことは困難と言われています。
・重度の場合:運動面、言語面の発達の遅れから早期に気づかれることが多く、食事や身支度などの生活上の活動について保護や介助が必要になる場合もあります。
ASD(自閉スペクトラム症)であり知的障害(知的発達症)を伴う場合に、カナー症候群やカナー型自閉症、カナータイプなどと呼ばれることがあります。
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カナー症候群の原因
ASD(自閉スペクトラム症)は、脳機能の障害により症状が引き起こされると言われていますが、脳に機能的・器質的な違いが生じる原因となる遺伝子などについては、現時点では特定できていません。
一卵性双生児の研究から、遺伝的要因が強いことが示唆されているものの、複数の遺伝子が関連していると考えられ、発症を決定づける単一の遺伝子が特定される可能性は、とても低いと考えられています。
また知的障害(知的発達症)の原因はさまざま考えられ、発症する経緯も一つではありません。
知的障害(知的発達症)の原因は、まだ解明されていない部分もありますが、主に病理的要因・生理的要因・環境要因の3つに大別することができます。
病理的要因は、病気や外傷など脳障害をきたす疾患で、これらの合併症として知的障害(知的発達症)が生じることがあります。例えば、出産前の感染症や脳性まひ、ダウン症などの染色体異常による疾病も含まれます。
一方で、基礎疾患などが見られないものの、知能水準が知的障害(知的発達症)の範囲内にあるといった場合、生理的要因や突発的要因(本田, 2018)と呼ばれます。
ほかに、直接的な原因ではありませんが、脳が発達する時期に栄養不足や不適切な環境であることで脳の発達が遅れる原因になることがあると言われています。
カナー症候群の診断・治療や支援法
カナー症候群の診断
ASD(自閉スペクトラム症)と知的障害(知的発達症)を伴う場合にカナー症候群と呼ばれることがありましたが、カナー症候群は診断名ではありません。診断名として現在ではASD(自閉スペクトラム症)に統合されています。
ASD(自閉スペクトラム症)には、
・社会性と対人関係・コミュニケーションの困難
・行動や興味の偏り
の2つの特徴があると言われています。
ASD(自閉スペクトラム症)の診断については、専門機関において、問診や行動観察、各種検査などが行われ、アメリカ精神医学会の『DSM-5-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版 改訂版)の診断基準に基づいて、総合的に判断されます。カナー症候群はASD(自閉スペクトラム症)と知的障害(知的発達症)の2つを併せ持つために、知的障害(知的発達症)の評価をする必要があります。
知的障害は、知能検査の数値(IQ)だけで判断されるのではなく、知的機能(IQ)と適応能力(生活能力)の2つが評価されたうえで診断されます。
◇知能検査・発達検査の例
・田中ビネー知能検査V
・WISC-V
・日本版KABC-Ⅱ
・新版K式発達検査
◇適応能力検査の例
・Vineland-II(全年齢)
・ASA旭出式社会適応スキル(幼児〜高)
・S-M社会生活能力検査(乳幼児〜中学生)
米国疾病予防管理センター (CDC) によると、ASD(自閉スペクトラム症)の子どものうち、約40%が知的障害を併存するという調査報告などもあります。
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カナー症候群の治療と支援
しかしASD(自閉スペクトラム症)、知的障害(知的発達症)ともに、本人の能力や特性に合ったサポートや環境調整などを行うことで、困りごとを減らしていくことが可能です。
◇療育(発達支援)や教育
療育とは障害(またはその可能性)のある子どもに対し、それぞれの困りごとをふまえ、その子に合ったアプローチで発達を促し、日常生活や園・学校などの社会生活で過ごしやすくできるようにサポートする取り組みです。「発達支援」とも呼ばれています。
療育(発達支援)では、本人の得意な面を活かしながら身辺自立や苦手なことを伸ばす取り組みや、コミュニケーションなどの社会的スキルを得られるような支援が行われます。
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