「朝から尿が出ていません。」
最初は言われた意味がわかりませんでした。
「下半身の臓器に通じる大動脈が縮窄しています。このまま尿が出ないと危険です。」
つまり、下半身への血管がほとんど閉じて、血流が止まっているということ。このままだと、臓器が機能しないということ。
「とりあえず、まずはカテで血管を開いて様子を見たいと思います。」
一も二もなくお願いしました。
カテーテルによるバルーン手術で開けば、そのまま落ち着いて何年かはもつ場合もあるということや、一応手術になるので輸血が必要なこと。
一気にいろんなことが押し寄せて、何枚もの書類に目を通しました。
手術だからもちろん同意書も書きました。
ほんの数日前に届け出たばかりの名前を、何度も書いた。
自宅に電話し、手伝いに来てくれている母に事情を話し、上チビをお願いし、麻酔をかけられ、保育器のままで運ばれていくチビを見送りました。
最後に時計を見た記憶が17時10分。手術のために通されたアンギオグラフィフィールーム周辺は電源オフエリアで、時計もない。いつも携帯を時計代わりにしていたため、腕時計すら持っておらず、それ以降、何時なのか、何分たったのか、記憶にありません。
明るかった廊下がだんだん暗くなり、通常は人がいない時間帯なのか、電気をつけに来る人もおらず、ただ、窓の外が少しずつ暮れていくのを見ていた。
旦那はいすにじっと座り込み、私はうろうろと、冬眠前のクマみたいに歩き回って。
母の勘?いやな予感はもうあった。
そして、窓の向こうの中庭、その向こうの別の部屋の奥、うっすらと見えた壁掛け時計が、おそらく6時を過ぎているのに気づいた頃、目の前の扉が開いたのです。
出てきたのは主任の先生。
「心拍が低下しています。蘇生は難しいかもしれません」
その瞬間、世界は色も音も失いました。
何枚も書いた同意書。確かに『万が一』の項目がありました。でも、万が一なんて、本当に万が一で、そんな確率にあたることなんて無いと思っていた。先生も
「万が一という項目もありますが、ほとんど万が一なんてことは無いと思っていいですから」
そう仰っていた。そのとおりだと思っていた。だって、万が一なんて経験、今までにないもの。
でも、『万が一』というのは、つまりゼロという意味ではなくて、『あるかもしれない』可能性がどこかにある限り、物事は常にゼロか1かで成り立っていて。
その後、先生は何か仰って、再び中へと消えていきました。たぶん、最善を尽くすとか、そういうことを仰ったのでしょう。でも、何を言われたのか覚えていません。
旦那は隣で、毎日お参りに言っていた神社の名前を呪っていた。私は「まだオムツも替えてあげてないのに」そればかり考えてた。
手も足も冷たくて、頭の先から血が下がっていくのが分かった。
それからどれくらい時間がたったのか、誰かが
「暗いですね。すいません。電気つけますね。」
そう言って、廊下の電気をつけてくれた。
でも、目の前は相変わらずとても暗くて。
次に出てきたのは主治医の先生でした。
「心拍がもどりました。」
涙も声も出ず、がくがくと震えがきた。震えているくせに、体中スポンジみたいにふわふわとして、ただ誰かわからない誰かに、ひたすらに感謝していました。
ありがとう。私たちにあの子を返してくれてありがとう。
長くなりました。
続きはまた次回。
...続きを読む
この質問に似ているQ&A 10件
この質問への回答3件
>ありりんさん 航ママさん
コメントありがとうございます。
少し穏やかな時間が続いたり、いいことがあったりすると、つらかったとき、悲しかったときのことをすぐ忘れてしまいます。油断して、欲張りになるんでしょうね。
そういう自分を戒めるためというか、あの頃を忘れないための覚書として書いています。
その程度ですが、読んでいただけてうれしいです。もう少しお付き合い下さい。

退会済みさん
2014/06/20 10:36
はじめまして!
あつまさんの文章、テンポ良く読みやすいです。
内容的に、次回が楽しみという表現は不適切ですが、早く読みたいと思っています。
Dolores ut voluptate. Et ut qui. Voluptas quam quae. Laudantium vel nihil. Velit doloribus delectus. Exercitationem voluptatem animi. Voluptates quisquam et. Voluptatem porro ut. Voluptate in voluptatum. Ut similique perferendis. Molestiae tempore et. Maiores aliquid possimus. Voluptatem ut id. Adipisci dolorum veritatis. Incidunt quos quia. Voluptates sunt voluptatum. Repellat qui a. Nobis molestiae dolorem. Sit aperiam voluptas. Dolores a quisquam. Aut porro quaerat. Autem ut sunt. Aliquid cupiditate modi. Voluptas possimus cupiditate. Quia labore et. Inventore perspiciatis voluptates. Consequatur tempore rerum. Voluptates eum aperiam. Rerum dolor atque. Et nihil exercitationem.

退会済みさん
2014/06/20 12:15
こんにちは。
あつまさんの障害との出会い、親として
何と言っていいのか、胸に込み上げるものがあり 見させていただいています。
次も待ってますね。
Voluptatem vel quia. Minima mollitia culpa. Non ad dolorem. Impedit libero neque. Excepturi repellendus rerum. Sunt praesentium velit. Quos sint consequuntur. Consequatur similique consequuntur. Officia quod quo. Reprehenderit consequuntur molestiae. Saepe quia expedita. Sed eius labore. Id commodi quo. Voluptatibus ad quia. Dolorem aut impedit. Sint consequuntur eum. Fugit sapiente ut. Et quia dicta. Odit omnis debitis. Pariatur quia exercitationem. Quia rerum voluptate. Nesciunt ullam facere. Unde est dolores. Quo quo impedit. Itaque enim velit. Ipsa velit quo. At quis sunt. Cumque perferendis id. Quis nobis vero. Ut dignissimos ullam.
あなたにおすすめのQ&A
関連するキーワードでQ&Aを探す
会員登録するとQ&Aが読み放題
関連するQ&Aや全ての回答も表示されます。